roppu

あのことのroppuのネタバレレビュー・内容・結末

あのこと(2021年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

1960年代のフランス。文学を学ぶ女生徒があるブルジョワ風のカス男とセックスしたのをきっかけに生理が来ない。中絶をすること、またはそれを協力する医者も投獄されるという環境下、家族にも友人にも相談できず、勉学に努めたい一心で、独りなんとかして子どもを堕ろそうともがく話。

映像的な説明がジャストな量で描かれているし、何より過剰にリアル。つまり、現実は甘くない。辛いほど過剰なストレス。
出てくる男はみんなその責任を取ろうとしないし、理解してくれそうな女たちも、自分の人生を賭けようとまではしてくれない人ばかり。
モダニズムが進んでいく中、システムや法が人々の価値観についていっていない状況、というのは中絶に関することも他の社会問題も似た構造を取っているように思う。

僕はまだ在日中だった頃、60年代のヨーロッパの映画を観て、その「自由」、「正義」に魅了されて、四年前に渡欧してきてわけだが、フェリーニも、ヴァルダも描いていなかった社会問題ということがここに描かれている(メインストリームばっかり観てたので、この時期にこの問題について描いている映画があればぜひ教えて下さい)。
欧米の民主主義が問われている。これは過去の話ではない。

2020年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞をした『Never Rarely Sometimes Always』であれ、2021年ベネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した今作であれ、おそらく芸術としての映画が社会問題を映す窓となっている現象、これを僕たちはどう受け止めれば良いか。

なんと更に現在、米国政治では、ワシントンポストから脱退した二人のジャーナリストが立ち上げたポリティコというメディアがリークするに至った記事がある。
1973年に判断された女性の妊娠中絶に関する決断が覆される可能性があるという、「(存在しているかどうかもわからない)民主主義」における最も重要な女性の権利が揺るがされている。

宗教は違えど、先進国の性教育レベルが過度に低い日本でも中絶が認められているとは言え、フェミニズム、人権問題と絡めて、議論していくことが必要であると思う。

中絶は女性の選択権利。その質はそれから議論されるべき。
roppu

roppu