木蘭

あのことの木蘭のレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
4.9
 静かで美しい映像の中に激しい怒りと憤りが込められた作品だった。

 常にあのことを意識している女性と違って、男の自分はいきなりヒロインの置かれた状況に放り込まれても上手く話しに乗れず、そこに至る物語を一緒に見せてくれないと感情移入が難しいな・・・と眺めていたのだが、無慈悲に刻まれていく時間の中で、ヒロインのジリジリとした焦燥感に飲み込まれていた。
 またヒロインの悲鳴と共に観客も呻いてしまうほど、果断に容赦なく残酷な光景を映し出すのだが、その姿がグロテスクで恐ろしくもあり、同時にある種の美を感じてしまった。これが生命なんだな・・・と。

 残酷な物語ではあるが陰惨にならないのは、美しい絵作りと、何よりも製作者たちが「小さな兵士」と呼んだヒロインの聡明でいて不屈の姿であり、それを支える理性や知性、そしてそれを紡ぐ言葉の力(文学)への迷うことなき信念は、さすがはフランス映画だな・・・と心が震えた。
木蘭

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