じゅ

あのことのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

あのこと(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

アニー・エルノーの『事件』に基づくとのこと。まだ読んだことはない。
大学生アンヌがたった一夜の初めての過ちで妊娠し、学業を続けるために当時犯罪だった中絶を試みる。アンヌが1940年生まれとのことだったから、たぶん1960年かちょい前くらいのことか。

中絶した女性本人のみならず、関わった人まで刑務所行きとのこと。故に口にすることも憚られるし、下心丸出しで話しかけてきた男も途端に「来るな」と真逆の態度をとる。親友も近寄らなくなり、一気に孤立する。
そんなことを思うと『あのこと』っていう邦題は絶妙だな。『ハリー・ポッター』シリーズの「名前を呼んではいけないあの人」ことヴォルデモート卿に通づる何かがこの中絶という概念にはある。英題は『Happening』らしいけど、まあそうなんだけど、『あのこと』がすごくしっくりくる。

家族にも言わなかったもんな。医者と同年代の人と、あと中絶の処置(失敗だったけど)をした後に講師先生に言ったくらいか。先生には直接的な言い方を避けていた。
価値観が近い同年代とか少なくとも多少理解はしてくれるであろう柔軟な価値観の人に言ったのかな。両親は古い人だから妊娠を伝えたが最後、中絶したいなんて言ったらブチ切れるし大学も辞めさせられると思ったのかもしれん。


壮絶だったな。身体には痛み。心には孤独。
金属の棒を突っ込んだり、焼石に水で体を動かして負荷かけてみたり、果ては2度の中絶処置。シアターの斜め前の席のおっちゃんなんて喘ぎ声上げながらもぞもぞ動いてたぞ。
妊娠したけど産む気はないと言えば犯罪とされる行為に関わりたくないからと親友も下心の男も離れていくし、不純異性交遊した形跡で今までべつに敵でも味方でもなかった同寮生の態度が悪くなる。医者に事情を話して頼った末、生理を促す薬として処方されたのが流産を防ぐ薬だった時の絶望感よ。「女性に選択権はないと思われてる」みたいな言及もあったけど、まさにその価値観の表れだった感。生理を促すやつを出さないにせよ、わざわざ流産の防止のやつを出さんでも。

2度目の中絶処置、拒絶反応を起こして合併症を引き起こすかもしれないだか何だったかでとりあえずめっちゃ危ないやつ、やった夜中に眠れず汗だくになるほどの苦しみの末にトイレでぼちゃんと赤黒いのが出てきてハサミで緒を切ったところ、なんというか静かに激しかった。なんとも形容できないなんか凄まじいのが自分の体から出てきてそれをただのハサミで切り落とすって。怖すぎるだろ。
12週ってここまで育つんだな。己の無知が申し訳ない。


中絶の話じゃないけど、現代でもトイレで産み落とした新生児をそのまま遺棄したっていう内容のネット記事をたまに見る。逮捕された彼女らの妊娠発覚から出産まではそれはもう孤独で絶望的だっただろうか。
人生と引き換えに産んだ子を愛せる気がしないとの旨のアンヌの言葉が重かったな。人生を引き換えに得る何かに希望的な要素が何も見出せなくて、そんな役割を性別というたった1つのしかも自分じゃ選べない要素で以って押し付けられる。バグい。生物学的な仕組みはそりゃあどうにもならんけど、人間社会の仕組みが追いつけんもんだろうか。ハンカチを使わせてやった見返りにぐっしょりの血糊が返ってくるこの人間社会が。

とりあえず今のところは男が無責任なちんぽを仕舞うくらいしかなさそう。
じゅ

じゅ