mimitakoyaki

あのことのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
4.0
前途有望な大学生アンヌが予期せぬ妊娠をしますが、1960年代のフランスでは中絶は違法でした。
今産むとなると、自分の夢も何もかもが失われてしまいます。
一人で抱えるしかなく追い詰められて行くアンナにカメラが密着し、アンナを追体験するような感覚で観ました。

妊娠を告げた医師からも「選択肢はない」と言われてなす術がありません。
フランスは人権がうんと進んでいますから、出産や子育てしやすいというイメージがありますが、60年代でもまだ中絶が違法だった事が意外でした。
今なんて、生まれる子どもの60%は婚外子だというフランス。
もちろん同性婚もできるし、別に結婚してない非婚カップルやシングルでも普通に子育てできます。
中絶が認められない時代があって、そこからここまで大きな進歩を遂げたんだと思いました。

もう直視するのが辛いくらい、アンナが心も体も一人で痛みを負っていきます。
「選択肢はない」という一言がどれだけ残酷か。
この作品を見て、これだけの痛みと苦しみを背負うのは女だけであるということ、妊娠に関して、女には選択も自己決定もできず、男との非対称性が浮き彫りにります。

教師になる夢はもちろんのこと、アンヌがもし産む決断をしたとしたら、シングルマザーとして、何もかも断たれて諦めて人生が一変してしまいます。
場合によっては命すら奪われてしまいます。
一方で、男性は何ひとつ変わらず、何かを背負う事もありません。
あまりにも差がありすぎて、目眩がしそうです。
また、妊娠させた相手の男も、妊娠を相談した友人の男も、まあ酷いもんです。
酷いけど、こんな人普通におるやろって思います。

もちろん、妊娠するのは女だけなので、女が妊娠や出産を引き受けていくのはそうなのですが、だからこそ女性の自己決定権、セクシャル リプロダクティブ ヘルス/ライツや、男性が責任を果たす事(避妊はもちろん、中絶や出産にかかる費用負担、性的同意などなど)も本当に大切なんだと思いました。

60年代の話でしたが、こういうのを見ると、包括的性教育や様々な権利保障をやっていくことの意義をめちゃくちゃ感じますし、日本の遅れっぷりはクソすぎるので、どうにかならんかなと思いました。

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