ゆみモン

あのことのゆみモンのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
3.0
2022年度のノーベル文学賞を受賞した作家アニー・エルノーが若き日の実体験をもとにつづった短編小説「事件」を映画化。法律で中絶が禁止されていた1960年代フランスを舞台に、望まぬ妊娠をした大学生の12週間にわたる戦いを、主人公アンヌの目線から描いている。

臨場感たっぷりで、アンヌの12週間を追体験している感じになる作品である。

望まぬ妊娠を告げられたアンヌは、医者に助けを求めるが、当時は中絶が違法だったため、断わられてしまう。自分を妊娠させた青年や、大学の寮の仲間たちに窮状を打ち明けたものの、誰も彼女に手を差し伸べようとはせず、アンヌは次第に追い詰められていく。
違法行為に手を貸せない人々の気持ちはわかる。しかし、アンヌの相手の男の無責任さは許せない。妊娠は男女両方の責任なのに、やはり苦しむのは女だ。いくら男女同権と言っても、女は「産む性」としての身体の仕組みを持つ以上、全く同じではない。中絶が違法であったことの不平等性への怒りを強く感じた。

この映画では、アンヌの相手の男だけでなく、他の男たちも無責任で非協力的だ。中絶の薬を処方するふりをして、流産を防止する薬を処方する医師。闇医者を紹介してもらおうと近づいた遊び人の男は「妊娠の危険はないから」と肉体関係を求める。性行為は女性ひとりでできるものではないのに、「妊娠」となると女性側のみに責任が押し付けられる図式が分かりやすく描かれ、男性の無責任さが強調されている。

直視するのが辛いシーンも多いが、若い男女に見てほしい作品だ。