ヒノモト

恋い焦れ歌えのヒノモトのネタバレレビュー・内容・結末

恋い焦れ歌え(2022年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

「プリテンダーズ」やドラマ「liar」などの熊坂出監督の最新作。

一応前提条件として、激しい性的暴行シーンを含めて他にもショッキングなシーンもあるので、全面的におすすめはできないのですが、ただ過激さを強調するのではなく、受けた当人の本当に意味での心の回復が時間をかけて描かれていて、最後まで観れば性的指向はともかく、心の動きとしては全うな作品だったと感じました。

ただ、フライヤービジュアルにあるいわゆるBL的な要素は、社会的な痛みを存分に伴った上で、その先にある救済のように描かれるので、ファンタジーな恋愛映画ではないことだけは確かなので、その辺は観る前に注意してほしいです。

物語の核心に触れたいので、ここから先はネタバレしますので、ご注意ください。

性的暴行を受けた主人公に対して、間接的にその心の傷に対して揺さぶりをかけるKAIとの不可思議な関係性とその影響の伝わり方が、物語の後半になるまでは唐突に感じるところがあるのですが、終盤に明かされる真相によって、社会のねじ曲がった構造の複雑さが浮き彫りになると、互いを求め合う意味というのが見えてくる設定にうなずけるところがありました。

主人公が教師という職業としての社会的モラルの枠内にいる存在から、KAIたちのいるアウトローな世界に順応しようとラップや格闘技に向き合っていく姿は、精神科医が施すケアよりも本質的な自己との対峙と解放のようなものがあって、1つの側面としてはKAIによる導きが救いのようにも見える。

しかし、後半では性的暴行事件の真実や、アウトローな世界を形作る存在がつながりを見せていく流れに向かい、もう1つの側面に隠された気持ち悪さが観ていて息苦しい感じがあるのですが、世間一般からすればアブノーマルな世界観ではありながら、そこに対しての説得力のある表現があって、腑に落ちるところは大変大きかったように感じました。

書きたいことがまとまり切れてないところもあるのですが、熊坂監督の前作「プリテンダーズ」以上に社会的モラルとそこから逸脱した存在との衝突が明確に描かれていて、マスク姿に表される閉塞的な社会も含めて様々な描写がドキュメントであるかのようなリアルがあって、日本映画に対して挑戦的な表現に感じられて、素晴らしかったです。

前作で指摘したカメラについては、今作は動的シーンが多いこともあって、手持ちカメラによる違和感はあまりなかったですし、鳥瞰的視点のズームや、見せるところと見せないところのさじ加減や、観客として観たいところに視点が追随していく感覚は、トリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を彷彿とさせるところもあって、前作と同じ南カメラマンの意図が少し分かった気がしました。

最後に、初日の舞台挨拶を観させてもらったのですが、95%くらいが女性客だったので、いろんな意味で緊張した感覚でした。
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