じゅ

コンペティションのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

コンペティション(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

そんなところで合気道を発揮するんじゃないよw
いやはやペリコラづくりも楽じゃねえな。


ウンベルト・スアレスだったかっていう、製造業を興して巨万の富を得た男が、80歳にして急に「後世に残ることをしたい」とか言い出して、新進気鋭の監督ローラ・クエバスだったかと世界的大スターの俳優フェリックス・リベロとベテランの名優イバン・トレスを集めてきて、大枚叩いて獲得した名作小説の映像化の権利を提げていざ製作開始。
最初の顔合わせの段階から既に噛み合わぬこの監督と俳優と俳優の表には出ぬすれ違いはリハーサル時点で大きくなり、ついにクランクインを目前に開かれたパーティで悲劇が起こる。イバンが陰でフェリックスを散々こき下ろすのをフェリックスが聞いてしまい、殴り合いの喧嘩に発展した瞬間フェリックスがイバンを屋上から落としてしまう。慌ててその場に降りようとしたフェリックスより先に、パーティの参加者が血を流して倒れているイバンを発見して現場は騒ぎに。フェリックスは無関係を装ってその場を凌ぎ、撮影はイバンの役の分までフェリックスが1人2役で請負い、作品は無事公開へ至る。
インタビューでフェリックスが植物状態のイバンの身を按じるコメントを述べて喝采を浴びる一方、病床のイバンが奇跡的に目覚めてしまう。


なんやら色々詰め込んでくれたもんで、どう見ればいいか迷う。
映画のことも権利を買った小説の内容も何も知らない金だけ野郎と監督・俳優・俳優の3クズの4人が織りなす何かへのアンチテーゼ的なやつ?
作中で映画化された「ライバル」っていう作品でイバンとフェリックスが演じた兄弟と演者本人に実際の共通点がある?
ラストカットでペネロペ・クルスが語ってたやつ?「映画が終わるのは本編が終わった時かそのしばらく後か云々」みたいな。


スアレス社長の無知無関心っぷりはまじで凄かった。後世に何か残したい→映画製作に出資しよう→全く知らんけど凄いらしい監督と俳優を連れてきた+全く知らんけど小説の映画化の権利買った→あとはよろしく、みたいなかんじか。
全く知らんものに大金を出すのを躊躇う気持ちは誰にでも少なからずあるって思うのは庶民の感覚なんだろうか。でも、なんせ彼は映画自体には思い入れ皆無で名声にしか関心が無かったのな。

ローラとかフェリックスとかイバンも何だあいつら。
ローラがフェリックスとイバンが受賞した盾だの何だのを粉砕器に放り込むのはまじできもかったな。オスカーだの何だのはまだ復元できるかもしんないけど、施設の子どもたちが作ってくれたトロフィーは無理だぞ。まあイバンは開き直ってたから結果オーライかもしんないけど、芸術の名の下で何しても良いとでも思ってんだろうか。おまえのパルムドールとか銀熊を自分の手で粉砕器に放り込もうが知らねえよ。己の価値観に全てを合わせようとすなよ。
イバンは人間としての根っこがなんかなあ。フェリックスが今まで共演した誰よりバカだとか傲慢だとか、ちょいちょいそのまま自分に返ってきてるなあってかんじ。自分にとっての正しさが世界の正しさとでも思っているかのようなかんじ。
フェリックスは、やってしまったな。遅刻癖とかどうでもいいofどうでもいいレベル。まあ確かに陰口叩いてたのはイバンだし、逆ギレして殴りかかってきたのもイバンだが、2階から落としたのをすっとぼけた上にむしろこの状況を利用して好感度アップを狙ってったか。正直に経緯を話せば一か八か正当防衛にはなり得たんじゃないか。イバンが陰でフェリックスをめっちゃ罵倒してたのを聞かされてた人も一応証言できるだろうし。
三つ巴の遅刻&ばっくれ合戦はちょっとおもろかった。いつもフェリックスが遅刻するからイバンも2時間遅刻してみて、そんなことに巻き込まれていい迷惑なローラも2人を呼び出すだけ呼び出して自分は現れず。なんか、名声だけでもってる人たちだなw

要は、誰も彼も自分のことばっかり。誰かに向けて発信されて誰かの胸を打つ映画の、その表に出ない裏側には自分志向のエゴがぎっちぎち。
そんな見方がまず1つできるかなと思った。本作の裏側にはどんなエゴがあるだろうか。


作中で映画化の原作小説として登場した「ライバル」ってやつについてはどう思えばいいだろう。ある兄弟がいて、弟はできるやつだったけど飲酒運転で交通事故を起こして両親を死なせ、兄に告訴されて懲役をくらって、何年かの後に出所した弟が兄に会いに行ってなんやかんやお互い大切な存在だよねみたいなかんじで抱擁した瞬間に弟が兄を刺殺し、弟が兄になり変わってそのまま過ごしましたとさ、みたいな内容だったか。

超優秀な弟を持った兄とか、両親を殺してしまった弟とか、互いに負い目がある兄弟なのよな。それがどんな風に顕になったかというと、弟が兄を滅多刺しにして「俺の方が上だ」との言葉を残した。
兄を演じる予定だったイバンと、元々弟だけの役立ったフェリックスも同様の関係だったのかな。負い目とは言わないにせよ、自分が上であることを示したくて仕方なくて、結果、外面は取り繕うけど互いに互いを快く思っていない。どっちかが本性を表した瞬間にそれまで取り繕ってきた平穏が終わる。
同じではないけど、きっぱり別人な気もしないなと思った。


あとは、映画はいつ終わるだろう。「終わる」ってのは、つまりその人の中で思い返されなくなるとか、ラストカットのその続きとかサブストーリーが想像されなくなるみたいなことなのかな。
ローラは「終わらない映画もある」みたいなこと言ってたっけか。もし仮に「終わる」の意味の捉え方がローラと俺でざっくり一致してたら、たしかに終わらない映画あるなーって思う。かも。

でも、仮に本作が「これが終わらない映画の1つだ」って言ってるんだとしたら、それはどうだろう。そうなのかもしれないけど、どうだろう。
その後どう考えても一悶着起こるような結末にすればその映画は終わらないんだろうか。問いかけをしてみればその映画は終わらないんだろうか。なんか、俺個人的には今このFilmarksの「投稿」ボタンをタップしてしまえばすーっと終わっていってしまいそうな感覚がある。まあ結局のところ人それぞれよな。
あるいは、イバンみたく天に唾するじゃないけど、自己矛盾を抱えれば終わらないんだろうか。いい意味でも悪い意味でも、心に引っ掛かれば。

もしかしたら「終わらない」ってのは、作中の世界におけるローラ・クエバス監督の新作『ライバル』が終わらないっていうことだったりするだろうか。
その作品の公開に至った付帯状況も相まって、観客の胸に強く強く刻まれる。フェリックスが「名優・親友・兄弟」と呼んだイバンの悲劇があったけど、そのイバンの意志までフェリックスが背負っている(と世間はまんまと思っている)。『ライバル』のストーリーが届けられるまでのストーリーの力が相まって、この『ライバル』という映画は多くの人の中で終わらなくなるのかもしれない。イバンが復活してフェリックスに不都合な事実が露呈したら、ある種さらに「終わらなさ」が増すかもしれない。

そんなことを思うと、「映画」というのは映画の中だけが全てではないのかもしれない。
じゅ

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