幽斎

コンペティションの幽斎のレビュー・感想・評価

コンペティション(2021年製作の映画)
4.4
【幽斎的2023年ベストムービー、ミニシアター部門次点作品】
「笑う故郷」アルゼンチンの奇才Gastón DupratとMariano Cohnコンビが国際派スターPenélope Cruz、Antonio Banderas、Oscar Martínez皆仲良くスペイン語トリオで描くアイロニカル・コメディ。アップリンク京都で鑑賞。

日本ではマイナーかもしれない「笑う故郷」、本作にも出演してるMartínezがヴェネチア映画祭主演男優賞。アカデミー賞アルゼンチン代表に選ばれた秀作。皮肉が効いてるのは本作と同じだが、ブラックユーモアだけど嫌味の無い作品で、もっと評価されて良い。本作は日本でもお馴染みのスペインを代表する国際派スター出演で、私もお薦め易く監督に感謝したい。何が凄いって、ソノ国際派スターお三人が資金を出して映画化。英語じゃ無くてスペイン語なので分かり易かったのかなぁ~(笑)。

Penélope Cruz 49歳!見えねぇ~。私がレビューしてるだけでも、生涯二位作品Ridley Scott監督「悪の法則」、「オリエント急行殺人事件」「誰もがそれを知っている」「ペイン・アンド・グローリー」「355」、私のマストはスペインが生んだ傑作スリラー「オープン・ユア・アイズ」。ソレを見たTom CruiseがNicole Kidmanと言う世界最強整形美魔女と言う妻が居ながらCruzに惚れて不倫して出来た作品が「バニラスカイ」昔から公私混同なんだよトムは(笑)。「それでも恋するバルセロナ」オスカー女優と言う事もお忘れなく。

Antonio Banderas 63歳!見えねぇ~。究極イケオジの彼だが、ハリウッド映画の影響か、マッチョなラテン系セクシー俳優(古っ(笑)。私の印象は彼は意外とコメディもイケるので、舞台俳優としても立派に成功したと思う。恩師Pedro Almodóvar監督とは名コンビで、レビュー済「ペイン・アンド・グローリー」初のアカデミー主演男優賞ノミネートを果たし、会場から万雷の拍手で迎えられたシーンはチョッと感動的だった。

Oscar Martínez 74歳はアルゼンチンを代表する俳優。「笑う故郷」の他にも日本なら「人生スイッチ」が有名かな。私的には珍しいラテン系スリラー「パウリーナ」の印象が強いが、「コブリック大佐の決断」アマプラ見放題なら観て欲しい佳作。コメディなら「メンタル・クリニックは大騒ぎ」、意外と日本でもリリースされてる作品は多い。

映画産業を露骨に風刺するが、決して批判してる訳では無い。撮影現場を入れ籠にした作品と言えばレビュー済「バビロン」が有るが、コッチはバカ騒ぎして終わりと言う何の教訓も得られないスカ作品。ユーロ圏の映画産業はハリウッドの様なシステマチックに組織化されてる訳でも無く、制作会社と監督と出演者が比較的対等な立場で映画創りをする。故に映画の暴露話とか、業界全体を皮肉るのではなく、特定の人物にフォーカスしてアレゴリーに満ちたコンペティション、競争を見せる。今回はCruzが監督。ソウ言えば彼女ほどの人物が監督経験が無いのも意外。キャスティングの時点で本作は成功してる。

映画って良く「脚本が命」って言いますね。でも実際は制作資金、カネオくんです(笑)。超一流のRidley Scott監督でも資金を集めたプロデューサーには逆らえない。アメリカの場合バックに俳優(特に女優)のスポンサーが複雑に絡み、多くは作品ファーストでは無く俳優ファースト。ユーロ圏は放送局とか銀行等がスポンサーに就く事が多い。問題は資金提供側が映画にドレだけ愛着が有るか?。私の父親世代は角川映画が一世を風靡したが、原作を理解してる人がバックに着くと観客がイメージした通りの作品が出来る好例。本作の中のプロデューサーは芸術に縁のない大富豪。意外と名作が出来る場合も有る。

プロデューサーが映画ド素人なら監督の独壇場だが、実際の映画の制作も監督の意向より製作者の思惑が反映され、ソレを調整するのも監督の仕事。SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」なんて全額Stanley Kubrick監督の持ち出しで誰にも文句を言わせず、SFを文化に押し上げた世界遺産級が誕生。秀逸なのはヴィジュアルの良いCruzが監督する事で、映画監督と言うヒエラルキーが、如何に独善的か明快に可視化。Martínezが監督なら誰も何とも思わない。Cruzが監督だからこそ、男性社会の違和感、当たり前が当たり前に見えない点が実に面白い。本作を観て居心地の悪い業界人も多いだろう。

「制作者と監督」「監督と俳優」「俳優と俳優」3つのコンパートメントでコンペティションを見せるが、俳優同士はエゴの塊で終始醜い争いに終始。2人の本物の名優がココまでヤルか?、俳優の仕事が情けなく見える。此の作品を観て俳優を諦める人も居るんじゃない?(笑)。エゲツないマウントの取り合いは、餌を投げたらやって来る鳩みたい。Cruzが2人を見て「ダメだこりゃ」サジを投げるが、人は簡単に変われない事を揶揄してる。

劇場で感心したのは映像のPerspective。また英語使ってるよと言われそうですが、パースペクティヴとは遠近法。本作はシンメトリーを強調した画角、ミニマリズムなモダニズムは映画館で見ないと価値が解らない。此の画角で有名なのはLeonardo da Vinci「最後の晩餐」。デザインを勉強した方なら分ると思うが「一点透視図法」。常に中心を意識させる事で、物事が見えてくる。此の技法を多用した人こそKubrick監督。世俗的なモノを客観的に見せる。ロケ地の美術館で3人が等間隔で離れて座るシーンは映像的にも美しい。でも中身はグロテスクなんだと、山葵の様に皮肉もしっかり効かせてる。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

ラストシーンが具象的から抽象的に切り替わるのも「2001年宇宙の旅」同じ手法。Cruzが直接話し掛けたので、彼女が第四の壁を越えたと一般的には思うだろう。だが、私は劇場で耳を覚ませ、無音と言う事は必ずメッセージが有ると集中したが、もう一人の女性の声が微かに聞こえる。声の主はオーディションに参加した若い娘。Cruzに愛撫しながら囁く。撮影が終わっても関係が続くと言う何の意味も無いメッセージ。「映画とは何か」なんて語るのはアホですわよと最後にCruzに言われてる気がした(笑)。

「映画は必ず終わると思った?でも違う映画もあるのよ」皮肉に満ちた濃密な114分。
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