KnightsofOdessa

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーンのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

3.5
[月が見守るニューオーリンズの夜] 70点

2021年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。アナ・リリー・アミールポアーの長編三作目。怪しげな夜の沼地から真っ白な隔離病棟の房へと移ると、そこにはモナリザという名の若い女性が拘束具を付けた状態で床に座って前後に揺れている。そこにやって来た看護師を操って彼女は脱走する。相手を見つめることでその身体を乗っ取り、意のままに動かす超能力を持っているのだ。親切な若者たちにニューオーリンズの場所を教えてもらったモナは、彼らにもらった靴を履いて、真夜中の都市へと降り立つ。彼女は10歳のときに北朝鮮からアメリカに渡った政治亡命者であり、両親どころか生年月日すら不明で、超能力を理由に12年間も病院に閉じ込められていたのだ。彼女の前には彼女を利用しようとする人々が次々と現れるが、その誰もが自分の行動に対して報いを受けるのに対して、モナだけはその輪廻から外れているのが興味深い。モナの超自然的な存在感は、無限に続編が作れそうな基礎的な物語構造からも形作られている(そこが『ストレンジャー・シングス』との違いか)。

そして、イメージとは離れた人物造形がなされているのも興味深い。彼女を寝ようと近付いたドラッグディーラーの白人男ファズも、彼女の超能力をカツアゲに利用した白人ストリッパーのボニーも、おおよそ紋切り型のような登場をするのに、キチンと模範解答から外れていき、超能力者として一人現実から浮いているモナを地面と結びつける。特に丈の短い拘束具を着たまま夜の街を女性一人で歩き、女性たちの脆弱性を華麗にかつ超自然的に裏返す前半30分の緊張感が素晴らしい。
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