うえびん

土を喰らう十二ヵ月のうえびんのレビュー・感想・評価

土を喰らう十二ヵ月(2022年製作の映画)
3.9
タオの人

2022年 中江裕司監督作品

『タオー老子』(加島祥造著)

▶飯だけはたっぷり喰う

世間が
頭のいいやつを褒めるもんたから
ひとはみんな
利口になろうとあくせくする。
金や宝石なんかを大事にするもんだから
盗っ人が増える。
世の中が
生きるのに必要のないものまで
やたらに欲しがらせるから
みんな心がうわずってしまうんだ。

だから道(タオ)につながる人は
あれこれ欲しがる心を抑えて
飯だけはたっぷり喰う。
野心のほうは止めにして
骨をしっかりこしらえるんだ。
みんなが
無用な無駄や欲を持たなければ
ずるい政治家や実業家だって
つけいる隙がないのさ。
そうなんだ、
無用な心配と余計な欲をふりすてりゃあ
けっこう道はつくもんだ、
行き詰まってもー。


▶天と地の在り方

天はひろびろとしているし、
地は果てしなくて、
ともに
長く久しくつづくもののようだ。
それというのも、天と地は
自分のために何かしようとしないで、
あるがままでいるからだ。
だから、長く、いつまでも、ああなんだ。

タオにつながる人も
この天と地の在り方を知っているんで、
先を争ったりしない、そして
いつも、ひとの
いちばん後からついてゆく。
競争の外に身をおいて無理をしないから、
身体は長保ちするわけだ。
つづめて言えば、
我を張ったりしない生き方だから、
自分というものが
充分に活きるんだ。


▶水のように

タオの在り方にいちばん近いのは
天と地であり、
タオの働きにいちばん近いのは
水の働きなんだ。そして
タオの人がすばらしいのは
水のようだというところにある。
水ってのは
すべてのものを生かし、養う。
それでいて争わず、威張りもしない。
人の厭がる低いところへ、
先にたって行く。
水はよほどタオの働きに
近いんだ。

タオの人は、自分のいる所を、いつも
善いところと思っている。
心は、深い淵のように静かだ。
つきあう人をみんな善い人だとし、
自分の言うことは
みんな信じてもらえると考え
社会にいても
タオの働きの善さを見失わない。
その人は、手出しをしないで
あらゆる人たちの能力を
充分に発揮させ、
人びとは
自分のいちばんいいタイミングで
活躍する。

これをひと口でまとめると
争うな、ということだ。
水のように、争わなければ、
誰からも非難をうけないじゃないか。



沢田研二演じるツトム

晩年を長野の伊那谷で暮らした詩人
加島祥造氏の生き方が重なる

本作にもタオの人をみる

二十四節気に合わせた
長野の山里の季節の移ろい
自然の恵みを活かした精進料理

目と耳と鼻
舌と心までも癒やされる作品でした
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