てっぺい

ベルファストのてっぺいのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.0
【奇跡の映画】
モノクロ映像に、監督が“奇跡”という意味を込めて挟むカラー映像。戦禍の物語が、意図せず現在のウクライナ侵攻を想起させる奇跡のタイミングでの公開。アカデミーでは脚本賞を取る奇跡!

◆トリビア
〇本作製作のきっかけはパンデミック。ブラナー監督は、家に籠ることを強いられたことで、幼い頃、暴動が起きて同じように家に潜んでいた時の記憶が蘇った。(https://eiga.com/movie/96109/interview/)
○北アイルランド出身の俳優や、音楽までベルファスト出身者を起用、徹底したリアリティを追求した。(https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/belfast-movie-review/amp)
〇ヘア&メイクを担当したのは、ケネス・ブラナー作品常連の日本人アーティスト、吉原若菜。『スペンサー ダイアナの決断』も担当しており、アカデミー賞ノミネート2作品に関わっている。(https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/belfast-movie-review)
〇ケネス・ブラナーは、本作でアカデミー史上初の通算7部門ノミネートを果たした。(https://eiga.com/news/20220214/6/)

◆関連作品
〇「ジョジョ・ラビット」(’19)
少年目線のコメディタッチな戦争映画。第92回アカデミー賞脚色賞受賞作品。ディズニープラス配信中。
○「ライフ・イズ・ビューティフル」('97)
戦禍の強制収容所で父が幼い息子につく優しい嘘。第71回アカデミー賞国際長編映画賞受賞作品。Netflix配信中。
○「オリエント急行殺人事件」('17)
ケネス・ブラナー監督・主演。ジョニー・デップなど豪華キャスト、前代未聞なラストのミステリー。ディズニープラス配信中。

◆概要
第94回アカデミー賞作品賞、監督賞ほか計7部門ノミネート、脚本賞受賞作品。ケネス・ブラナーが自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。
【監督】
「シンデレラ」ケネス・ブラナー
【出演】
ジュード・ヒル(子役)
「グランドイリュージョン」カトリーナ・バルフ
「フィフティ・シェイズ」シリーズ ジェイミー・ドーナン
「007」シリーズ ジュディ・デンチ
【公開】2022年3月25日
【上映時間】98分

◆ストーリー
ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディは、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。笑顔と愛に包まれた日常はバディにとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだったバディの世界は突如として悪夢へと変わってしまう。住民すべてが顔なじみで、ひとつの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々の中で、バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られる。


◆以下ネタバレ


◆奇跡
本作からどうしても想起してしまうロシアのウクライナ侵攻。もちろんそれを意図して作った訳ではなく、前述の通り、ブラナー監督がコロナ禍で発想した過去の記憶が映画になり、それが今のこのタイミングで世に出されるという奇跡(諸外国では少し前)。さらに、ブラナー監督はインタビューで本作のカラー部分の意味合いを「奇跡の象徴」と語っている(https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/belfast-movie-review/amp)。戦禍でのエンタメがいかにベルファストの人たちにとって一時の平穏を取り戻せる奇跡だったか。本作は、色んな意味での“奇跡”を抱えた映画だと思う。

◆ほっこりと緊張
内容はといえば、ほっこりと緊張の連続。町の誰もが知り合いで、家にはいつも家族がいて、一家3代で映画を見に行くあのほっこり感。いつも分かりやすくバディを諭し、“答えは一つじゃない”事を教えてくれたおじいちゃんもとても素敵だった。こと、盗んできた洗剤の言い訳に“オーガニックだから”には吹いた笑。マイティソーのコミックに、007アストンマーチンのプラモデル、アガサ・クリスティの本まで、ブラナー監督が幼少期の思い出を詰め込んだような(でも楽屋落ちの)随所のアイテムにもほっこりだった。その中で、夫婦の亀裂、町に列挙する暴徒、テレビに映し出される戦場の映像。幸せの塊のようなベルファストの町に、暗雲が徐々に立ち込めていく様に緊張感が高まった。

◆選択
本作を通して描かれた家族の選択。ステイか避難か、吐くほど頭を悩ませるママの姿がいよいよ生々しく、それこそ今ニュースで見かける避難民の姿が余計に強くフラッシュバックするようだった。最後に町を出る選択をした家族に、心でエールを送るおばあちゃん。最後に映し出されたメッセージのように、残る事を選択するものも、出る事を選択するものも、そしてその中で消えてしまった命も、答えは一つではなく、それぞれの選択。そのあと映し出された現代のベルファストの街並みは、まさに“奇跡”なほど、美しく佇んでいたと思う。

引用元
https://eiga.com/movie/96109/
https://ja.wikipedia.org/wiki/ベルファスト_(映画)
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