おなべ

ベルファストのおなべのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.7
◉郷愁や地縁よりもっと深くて、簡単には切り離せないもの。その土地で過ごした時間や空間、思い出や人との結び付き…その全てに生きた証がある。

◉1960年代末、植民地争いや宗教対立により勃発した「北アイルランド紛争」を題材に、北アイルランド ベルファスト出身である《ケネス・ブラナー》監督自身の幼少期の体験を基に製作された自伝的映画。本作は、不安定に揺れ動くベルファストの街で、時代に翻弄されながらも強く生き抜く家族の姿を克明に映し出している。

◉第94回アカデミー賞にて〔脚本賞〕を受賞した作品。

◉1969年8月15日。北アイルランドのベルファストに住むバディは、カトリックやプロテスタントなど、様々な宗教を持つ人々が共生している街で、いつものように平和でありふれた日常を送っていた。しかし、突然 反カトリック派の武装集団が街を襲撃。バディはその光景を目の当たりし…。

◉父親役の《ジェイミー・ドーナン》はベルファスト郊外出身。母親役の《カトリーナ・バルフ》はアイルランド ダブリン出身。祖母役の《ジュディ・デンチ》はイギリス出身。祖父役の《キアラン・ハインズ》はベルファスト出身。バディ役の《ジュード・ヒル》は北アイルランド出身。

◉出演者に所縁のある地、所縁のある事象や出来事を演じる事は、それだけで意味を持つ。出生や育ちが無関係の人でもいいけれど、実際にベルファストやアイルランド出身の役者を起用する事で、監督が本作に求めるリアリティや拘りが感じられた。

◉一部を除いて、モノクロ映像を採用。敢えて色を捨象する事で、当時のリアルな息遣いを演出。もしくは、鑑賞者の意識が余計なところへ行かないように、観てほしい部分や体感してほしい部分に集中してもらうための演出かもしれない。

◉また、すべてが見映えするFIXのカット割が印象的。撮り方の拘りが感じられる“映え”カットに魅せられた。加えて、時折り流れるイギリスのソウルミュージックが心地よく響き、優しいメロウ感に包まれながら、作品世界を堪能した。

◉程よくユーモアに溢れ、且つベルファストの土地や人間が醸し出すゆったりした時間の進み具合も相まって、厳しさの中に人間の温もりや希望を感じた。












【以下ネタバレ含む】












◉北アイルランドでこのような歴史があった事を、恥ずかしながら初めて知った。現在、ロシアとウクライナで戦争が起こり、数多くの避難民と犠牲者が増えている。本作と同じように、故郷に残った者、残された者、離れた者、離された者、そして遺された者…様々な人が、今まさに命を左右する選択を迫られている。

◉その土地に自ら残る者、残された者、その土地から離れた者、離された者、そして遺された者と命を落とした者。それぞれに事情や理由があって、国も土地も人も分断され、争いが絶えない世の中に生きていくためには、常に正解のない選択を強いられる。ただ、どの選択肢を選んだとしても、そこに愛する者と信念さえあれば、前を向いて強く生きていけるというメッセージを受け取った。

◉数学のテスト、映画館「チキチキバンバン」、ラストのダンスシーンがお気に入り!
おなべ

おなべ