決して裕福な家庭ではないけど、主人公のバディは学校の成績も悪くなく、沢山友達が居て、初恋の相手も居る。色んな大人たちに囲まれて見守られ、好きな映画を沢山見て育って、どちらかといえば恵まれたほうかもしれない。
住民同士の対立が始まっても、生活の全てが一気に変わってしまうわけではない。初恋の相手との距離が縮まったり、悪友と悪戯したり、今まで通りの生活も続いてゆく。そんな一日一日の積み重ねの中で、生活の全てが詰まった故郷を捨てて移住するか、命を危険に晒してでもとどまるか、選択を迫られてゆく。
北アイルランド問題ということでめちゃくちゃ辛い内容を予想していたので結構意外でした。でも、楽しい今までの日常と線引きしきれないからこそ選択が難しい、苦しいんだ、と分からせてくれた作品。ある日を境に生活が完全に悲劇に塗り替えられたら、却って人生は簡単なのかも。実際はそうじゃないというのを、コロナ禍で撮影された今作の隠れたテーマな気もします。
全体的になんとなく他人事とか、よその国という感じがしない。妙に懐かしい。不思議です。まさに故郷の物語。
色んな映画が挿入されるけど、個人的に「真夏の決闘」が印象的でした。誰も一緒に戦ってくれない西部劇。グレース・ケリー演じる主人公の妻が言うように逃げるしかないのか。
ジュディ・デンチ以外の俳優さんは存じ上げなかったけど、皆さんとにかく演技力がすごい。本当の一家、ご近所さんという雰囲気。こんなに凄い俳優さんがまだこんなに居るのか。メイキングを見るとプロフェッショナルが沢山いる現場だったんだなと分かってなお感動。こんな良質な作品が見られるのはありがたいな。
