ケネスプラナー監督のポワロ探偵の連作は評価がバラけていることもありなんとなく敬遠したままなのだけれど、これは予想を上回る良作だった。
監督自身がベルファスト出身とのことで自叙伝的な要素もありつつ、ごく普通の一家が時代に翻弄されるさまを丁寧に描くことで、家族の絆や郷愁をいまこの混乱の時代だからこそ映し出したかったのかもしれない。
冒頭、現代の色鮮やかなベルファストの風景から、約50年前のモノクロームな街へと場面を変える。監督が育った時代の薄雲った世界はこうだったと言わんばかりの粋な演出に、その世界へと引き込まれる。
紛争の絶えない街で右往左往しながらも、大好きな祖父母やガールフレンドのことが頭から離れない少年のバディ。ただ好きな人と好きなことをしたいだけなのに、世界からも家族からも、いつも犠牲となるのは子どもたちだ。
関係ないけれど、ベルファストと言えばどうしても、幼い妹弟を抱えながらスパイに身を投じて大西洋に散ったミハルラトキエのことが脳裏をよぎる😅
さて、母親を演じているのが「フォードvsフェラーリ」でケンマイルズの奥さんを演じていたカトリーナバルフ。ここでも家族を気遣う気持ちとすみ慣れた街への想いに揺れながらも強い母を好演、モデル出身の抜群のスタイルがまためちゃくちゃかっこよい。タンクトップしか勝たんて。
祖母役のジュディデンチ。スカイフォールからもう10年か。すっかりおばあさんなのだけれどこれがまたいい味出しすぎ。そうか、オリエント急行ほかケプラー作品は何と6度目とな。これは観なくっちゃ。
スタートレック、サンダーバードなどの時代を映し出す子ども目線の映像や、ケプラーが監督したマイティ・ソーのコミックを読んでいたり、恐竜100万年のラクエルウェルチ、真昼の決闘のテーマの使い方など映画ファンをくすぐる小ネタが満載で、枝葉の部分ではあるけれどこういうのも楽しい映画には必要。
想い出のいっぱい詰まった宝箱を閉じて前へと踏み出すかのようなラストが甘酸っぱくて切ない。誰しも心の中にある原風景を思い出さずにいられない、そんな優しさに溢れた映画だった。