Ricola

ベルファストのRicolaのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.6
美しい北アイルランドの街並みが鮮やかなカラーで映し出される。現代の街並みだろう、まるで観光案内映像のように、街の景色や数々の観光名所らしき場所が次々と提示される。
その映像の延長線上にある、どこかの塀をくぐって抜け出すといつの間にかモノクロの世界が目の間に広がる。
そのままタイムスリップしたかのように、1969年のベルファストという町の住宅街へと我々は着地する。

当時の北アイルランドの紛争を背景に、主人公の少年の眼から見つめられた家族や時代の変化こそが、この作品の主題である。
その主題を表現する演出に特に注目した。


例えば、空模様がよく映し出される。
それはストーリーの節目、ショットとショットのインターバルかのように度々挿入される。
映像が白黒だからこそ、家や街の細かいところよりも、雲の分厚さや雲の隙間からもれ出る太陽の光のほうに目がいく。
時間の経過はもとより、文字通り主人公の少年バディと彼の家族の雲行きがそこで表されているのかもしれない。

両親が家で何か大事な話をしているとき、バディはこっそり近づいて耳を傾ける。一つのショットに彼も参入するが、両親は彼の存在に気づくことはない。家の壁や扉、窓枠などが両親と息子を隔てるのだ。
また、両親が口論しているときはだいたい、バディは大好きな西部劇映画を観ている。自ら彼は音も遮断して自分の世界に逃げ込んでいるのだろう。
一方で祖父母といるときは、バディと彼らの間に隔たりはない。祖父とは特にそうである。バディにとって祖父母はいつも安心して過ごせる相手だということが、両親との違いでわかる。

屋外にいる場合は、柵によってプライベート空間が生まれる。
いとこのお姉ちゃんから万引きの計画をこっそり話されたり、お父さんは街の革命派から話を受けるときには柵が彼を守ってくれる。お母さんが彼女の姉と話をするときも、遊ぶ子どもたちとの間にある網がそれぞれを仕切る役目を果たしている。

あくまでも少年バディの視点から語られる紛争と家族だが、彼の眼差しは明るくもときに鋭くときに哀しみさえも帯びたものであった。
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