せいか

ベルファストのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

ベルファスト(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

10/01、AmazonPrimeにて視聴。字幕版。
分断されるアイルランドにあって恐怖がそこにあるのならば、どれだけ親しみを感じていてもその土地を離れなければならないのである。

1970年代の北アイルランドのベルファストを舞台とした話。つまりそこからでも十分に察せるように、アイルランド島内の長きに渡る軋轢を根とする暴力的なテロおよび内乱状態を描いたものである……のだが、最初の時点から歴史的背景をスパッと切り落として宗教対立のところにばかり話を落としているきらいがある。確かにそこは先鋭化されていって現実にあったけど、観ていて、なんだかなと思うので、たぶん、アイルランドの歴史や政治などについてある程度知識があることを前提とする作品だと思う。冒頭のプロテスタント側の乱暴狼藉に襲われて場が混沌と化したときにおかんがわざわざ窓側に居座って様子を伺い見ているという描写にすらなんか腹が立ってくる。
アイルランド島内の歴史は興味あるので、現代にも続く問題や、かなり近年まで危うい状況が強かったこととかもそれなりには分かっているし、それもあってその世界を生きてきた監督の半自伝的作品という立ち位置の本作にあんまりこういうの言いたくはないけれども。主人公が恋していた女の子がカトリックで、お互いに尊重しあえれば結びつくこともできるんだよとか言う親父のセリフも本作では肝でそれはそうなんだけど、本作の題材的にやはりいささかものごとの単純化のほうが気になるところはある。言いたいことは分かるし、それはそうなんだけど。その問題、単純に個々人が違う立場を尊重できればで解決できる話ではないよね?というか。確かにそういう要素も強いし、相変わらずすぐに分断される現代人に向けてのメッセージとしてそこが重要なのも分かるけれど。
とはいえ、宗教と闘争が結びつく強さみたいなのも伺える内容となっている。隣人として仲良くやれていたのに容易に政治的問題で崩れる関係だとか、敵味方(宗派の違い)をどうやって見分けるのかみたいな話とか、随所に観ていてぞっとする話は盛り込まれている。
恐怖や不安が穏健派をも飲み込み、あえて反抗する力も削ぎ、ある種の事勿れを生み出す。大戦期などこれまでの社会にも見られたものの反復であり、現代の日本においても無関係とは言えない有り様が描写されている。社会、経済、一部の過激派や政治的な舵取りが人々を分断させ、対立を促し、さらなる地獄を生んでいく。そういう普遍的な人間社会の嫌なところを描いているのが本作なのだと思う。なので、否が応でも現代の自分が身を置くところのあれこれを連想して、テンションはローになっていた。この世はクソである。

主人公自体はプロテスタントで、本作の場合は町を恐怖で支配しているのはプロテスタントの強硬派なので強者側に近い立場にはいるものの、一家揃って穏健派であるため、強硬派のやり方には嫌悪感を覚えている。主人公一家は生活に余裕もなかったりとかもあるのだけれど、そこはそれとしてのみ本作では切り出されている。
ともかく、それで巻き込まれたくもない闘争がじわじわと一家を蝕むようになり、ロンドンへと発つ結果となるのである。
混乱の様子とかは直接的には大戦期のユダヤ人迫害の様子をそのまま彷彿とさせもする。こういうのも中身を変えていくらでも繰り返されていることなのだけれども。

ここで生きてきた母親の、よそへと移る不安、自身の訛りがからかわれるかもしれない恐怖感といった、疎外感への恐れみたいなのも、よくわかるものではあるけれど(そして歴史の中の移民というものから、国内レベルの引っ越しというものまで思い当たるめのでもあるんだけど)、こうした闘争の中の団結と沈黙にちょっと似ているように描かれているのが面白かった。祖母の、病で遠方へ入院すべき夫をそれでも我が家へ留めおきたいと現在を延長しようとする行為もそうである。家に固執する女みたいな図になってるきらいはあるけど。
自分たちの独力でどうにかなるわけでもない不安ばかりの現状をどうするかという話でもあるのだろう。こういうとこでも祖父が強くて、どこへ行ってもおまえはおまえだし、お前自身がどうしたいのかという話をしてくれるのだけれど。じいちゃんにテーマの役目めちゃ負わせてる感。ばあちゃんもそうだけど。
この件に関しては息子たちも混乱に巻き込まれるに至ってここにはいられないという決断をすることになる。

主人公の祖父が計算問題の数字を曖昧に書いておくことで教師に何が書かれているかを選ばせることを、選択肢を増やすことで勝率を上げると語っていて、多分ここで人生における選択肢みたいな話を暗示しているのだろうけれど、支配する人(=ここでは教師)が都合よく解釈できるようにすることというか、その目を眩ませるというものでもあるのだけれど、選ぶ主体が他人にある上での選択肢の増設なので、ちょっともやりはした。言いたいことはそれてはないのは分かるし、映画から外れた感想、ぼやきであるんだけど。
それってズルじゃんと言い返す主人公に、答えが一つなら紛争なんて起こらんよと答えるのは好きではある。

作中で病身の祖父は死に、主人公一家の引っ越しも決まり、終盤では地元の人達が盛大にお見送りパーティーをしてくれる。
本作、混乱の中にあっても近所の人達と距離が近く結びつき自体は深かったのが、どうしようもないので引き離されるのが観ててつらくはある。

ラスト、旅立つ一家を見送る、ベルファストに残る祖母が、一人、振り返らずに進みなさいと語るのも、この闘争は過去のものとしてあなたはあなたの道を進んでという力強いものなのだけれど、なんか、あんまり沁みないままのエンディングだった。


あと、本編は、昨今というか一部でというか、たまに用いられている、モノクロ映像が採用されている。でも、現代のモノクロ映像あるあるだけれど、画面に深みを無くしてフラットで気持ちの悪いものにするだけでなーーーんも良くないのが、やはり本作でもそうなっている。かつてのモノクロが主流だった時代はその画面づくりのためにいろいろ技術を込めて画面が美しくなるようにしていたわけで、現代においてはその技術も廃れ、忘れ去られている中で、取り敢えずモノクロ化したところで単調なものが出来上がるだけなのでマジで止めてほしい。観ていて苛ついてくる。
要所要所でカラーを用いる小細工も本作では苛立ちの要因の一つにしかならない。
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