なべ

カウンセラーのなべのレビュー・感想・評価

カウンセラー(2021年製作の映画)
4.0
 製作費はわずか120万円だったらしい。なるほどシークエンスは限定的だし登場する役者も少ない。それなのにこんなに濃密で緊張感ある42分間が撮れちゃうんだ⁉︎
 確かに、そこでそんなモノ出さない方がいいのにとか、そんな演出を加えるとちょっと散らかるなって、少し残念なところはあるんだけど、それを補って余りある魅力がカウンセラーにはある。怖いのに好きにならずにいられない吸引力とでもいおうか。

 「妖怪が見えるんです」

 予約もなく突然カウンセリングに訪れた吉高アケミの気負いのないこのひと言が怖くて。幽霊や心霊的な怖さじゃないよ。生身の人間の方。精神的な闇を抱えている人の妙に不安になるあの怖さ。
 邦画やドラマで「どうです、わたしの異常な演技は。ヤバいっしょ⁉︎」と悦に入った恥ずかしい芝居をよく見るけど、ああいうのじゃないよ、西山真来の芝居は。
 じとっとした定まらない視線、時折り誰に向かって話してるのか方向を見失う居心地の悪い声の抑揚、同意を得るのに顔を近づけてくる不意の仕草など、ちょっとおかしい人のそれが実に巧みに練り込まれてる。西山真来は本当にそんな人なんじゃないかと思えるほどだ。実際多くの観客が彼女のペースにのまれてたし、ぼくも首までどっぷり浸かってた。
 結局あのセッションはなんだったのだろう…そんな感じで映画は終わるんだけど、観客は確実に何かをもらってたな。見終わったあと、館内にかすかな動揺が広がってたのをぼくは見逃さなかったし、ぼく自身、自分の精神が汚されたような嫌な気分になってた。
 もし観る機会があったなら、迷わず観てほしい。騙されたと思って観て。嫌な穢れと新しい才能に巡り合う興奮をぜひ味わってみて!
 中田秀夫がポンコツだとわかった昨今、ついに日本のホラーを牽引する旗手が見つかったとぼくは確信したよ。
なべ

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