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世界で一番美しい少年のsyuheiのレビュー・感想・評価

世界で一番美しい少年(2021年製作の映画)
3.5
2021年のクリスティーナ・リンドストロム&クリスティアン・ペトリ監督作品。

71年ヴィスコンティ監督『ベニスに死す』の美少年タジオ役で一躍有名となったビョルン・アンドレセンの半生記を辿るドキュメント。「世界で一番美しい少年」はいかにして世を席巻したか、大人たちから有形無形の搾取を受けてきたか、そしてどれほど多くのものを失ってきたか、古希間近の本人が語る。

タジオ役の美少年はオーディションで選ばれた。バイセクシャルを公表していたヴィスコンティは"5番目の少年"ビョルンに夢中となりその美貌を"完璧な美しさ"と形容し、上半身裸になれと言いカメラの前でポーズを取らせる。映画の撮影スタッフの多くは同性愛者でビョルンを見ることは禁じられたという。

映画が公開されるとビョルンは世界的人気を博す。中でも彼を熱心に消費したのは日本で、来日するとビョルンは帝国ホテルに滞在し、CMに出演したりたどたどしい日本語で歌手デビューしたりと大忙し。あまりにも忙しいので"元気になる薬"をもらっていたという驚くべき証言も飛び出す。

父は早くから行方不明、母は彼と妹を産んだ後、森の中で自殺。主に祖母に育てられ、この祖母がタジオ人気にがっつり乗ってビジネスを展開した。結婚して2児をもうけるも1人が突然死するなど身内の不幸も重なる。まともな俳優キャリアはなく『ミッドサマー』登場が久々のスクリーン復帰だった。

人気絶頂のころはゲイバーに連れ回されプレゼントや"お小遣い"をもらう日々。彼を所有していると見せびらかすことに価値があるトロフィー的存在だったと言う。常に自分中心の生活でまともな大人になれず心は子供のまま歳を重ねてしまったと独白。恋人からこっぴどくフラれる姿はあまりに気の毒だ。

芸能業界における未成年者に対する搾取は今年になってようやく日本で本格的に議論されているが、祖母に言われるがまま2度も来日し"ビジネス"に精を出したビョルンもその1人だと言えるだろう。エンドクレジットで流れる彼の日本語オリジナル楽曲、たどたどしい日本語の歌声が哀れを誘う。

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