モカ

ワース 命の値段のモカのレビュー・感想・評価

ワース 命の値段(2019年製作の映画)
4.0
平日23:45からNHKで放送されている「国際報道2023」でこの映画が取りあげられていたのを見掛け、ファインバーグ氏ご本人のインタビューがとても印象的だったので観てきました。

感想ですが、かなり良かったです。
あらすじ欄に書いてある通りの心の踊らないテーマでしたが、実話に基づくメッセージ性の強い作品というのは、やはり自分としては魅力的。

「人の命の値段はいくらか?」
まず、ほとんどの人がタブー視し、誰もが嫌がるであろう仕事に懸命に取り組んだケン・ファインバーグ氏の奮闘を称えたい。誰にでも出来る事じゃないですほんと。

しかし、いくら社会福祉の向上に繋がるとは言え、非市場的規範が律する道徳的領域に本作のような打算的市場主義が介入する際、毎回のようにつきまとうこの嫌~な感じは一体何なのでしょう……?

我々人間には、お金には換算出来ない何らかの尊厳があると信じるからなのか?
だとすれば、それは何なのか。
それとも、単に不平等を助長する公正さを欠く分配方を良しとしないからなのか?
だとすれば、完全な解決策は存在するのだろうか。

命の値段に限らず、市場の論理が有形財の領域を乗り越える場合、常に功利主義と規範主義の線引き問題が顔を出します(※)。
単純に映像作品そのものとしても素晴らしいですが、個人的には、行き過ぎた功利主義の危険性に映画の光を当てることで、近年ますます境界があやふやになっているこのような線引き問題に世間の目を向けさせる、優れた啓蒙性を期待できる作品のように感じられました。

そして、大規模な補償基金プログラムは実際には何年にも渡って進行するもの。それゆえに2時間にまとめるという作業はかなりの困難が伴ったはず。
それでも、市場価値が侵入してはならない我々の道徳が占めるべき領域はどこなのか?9.11事件を通して、それを改めて考えさせられるだけの刺激性を失わずに仕上がっています。

この監督の作品を観るのは初めてだが、かなり自分好みの作りで十分満足でした。
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