エンドロールの詩の朗読も含めて、極めてロシア的な情緒に充ち満ちたディザスター映画。
安易な愛国映画や英雄譚なのでは?と不安だったが、そこはちゃんと踏みとどまった、堂々たるエンタメ作品だった。
物語の前半は、あの頃のファッションや音楽といった情景を色彩豊かに再現したソ連版バック・トゥ・ザ・80sの世界で繰り広げられるメロドラマなのだが、時折差し込まれる報道で見知ったチェルノブイリやプリピャチの景観が、これから起こる惨劇を思い出させ、くさびの様に心に突き刺さる。
中盤に起こる主人公たちの人生を狂わせる事故の発生、あの有名なスピーカーから流れるアナウンス、青い炎、赤化した松林・・・崩れゆく日常と高まる緊張の中、主人公が身を挺して挑む困難とクライマックス、そしてロマンス・・・という展開は、ディザスター映画の基本通りで、演出や映像のクォリティも高い。素直に泣けてしまう。
これは人災だと劇中で語られるが、責任者なんて今更どうでも良いとも語らせる姿勢は、国外の評論で批判されているし、それももっともだとは思うが・・・殉死を覚悟している現場の人間にとっては、それがリアルな心情なのだろうとも思う。
最も英雄的な瞬間を描いているので、悲惨で残酷なその後の事故処理や放射線障害についても、ほとんど描かれていない問題もある。
勿論、ロシアで描く限界・・・それは政府や原子力産業界の協力を受けているだけではなく、まだ劇映画として当事者たる観客が向き合える限度というのがあるのかも知れない。
それでも、一寸したシーンに皮肉めいた事を忍ばせているし、予感させるシーンを入れ込んでいる。だから直接的に描かなくとも、彼らには絵が浮かぶのだろう。
エンドロールの曲が、音楽に合わせた詩の朗読というのもロシア的で、変わってしまった人生を嘆く詩だと思うのだが・・・しかし何故、日本語字幕を用意しない!?必要だろ!