泡沫

兵役拒否の泡沫のレビュー・感想・評価

兵役拒否(2019年製作の映画)
3.5
暴力的な占領行為に対して平和のための抵抗は地道に行われ、今苦しんでいる人がいてもそれしか手がないというもどかしさや無力感も大きな敵の一つだと思う。イスラエルの高校生アタルヤさんはそういうものにめげずに地道で困難な道、徴兵拒否を選んだ。国民皆兵でなくとも同調圧力に抗うことの難しさは私の住む国も全く一緒で、大変勇気のある人しかできない行いのように思えるが、彼女は「普通のイスラエルの若者」として責任を持とうとしている。望んだわけではなくても私は占領者なのだ、道は険しいがパレスチナ人の苦しみはその比ではないという言葉は全く私に無関係だろうか?今苦境にある人たちを差し置いて私が世の中に絶望するのはおこがましい話で、西岸地区に足を運んで話を聞いたアタルヤさんたちはそういうことをよくわかっている。彼女は大きく何かが変わると思ってそうした訳ではないけど、家族や友達、同世代は考え始める。本当に軍事力に頼るしか道はないのか、自分には何もできないのか、と。
ところでここに出てくる人、兵役を拒否したアタルヤさんや彼女を支援する人々だけでなく、軍人だった母も普通に「占領」という言葉を使っている。入隊した方がいいと思うのは刑務所に入ってほしくないというただの親心で、「パレスチナ人は私たちを憎んでると思う」という姉でさえ軍隊による占領を手放しで支持しているわけではない。無知なままぼんやりと敵を想定して軍隊は必要だとか言わない。みんな現実を見てよく話し合う。この家が特別なのか?母に限らず父も祖父も元軍人で、おじいさんは流石に頑なだが(この世代だから見てきたこともあるかもしれない)、それでも頭ごなしにアタルヤさんを叱りつけたりしない。意見が対立しても穏やかに「私には理解できない」ときちんと言うのだった。子どもの意見に耳を傾ける風通しのよい幸せな家庭で、なるほど良い兵隊候補を育てるには家父長制の抑圧が必要なのかもしれない。ああいうものはみんな繋がっているのかもしれない。
泡沫

泡沫