ヨーク

ストロベリー・マンションのヨークのレビュー・感想・評価

ストロベリー・マンション(2021年製作の映画)
3.7
『サムサラ』に続いて下高井戸シネマでやっていた日本未公開映画の特集で観たのだが、この『ストロベリー・マンション』も中々に面白い映画でありました。さすがに『サムサラ』ほどの衝撃度は無かったけど、低予算なりに趣向を凝らした映画で、なんていうかサービス満点の作品って感じでしたね。
本作は特徴として設定およびストーリーが面白いというのがあって、そこよかったですね。俺の映画感想文では大体いつも「ストーリーは大したことないけど面白かった」という語り口で感想を書き出すことが多いんだけど、実際そんなに奇を衒ったストーリーというのはそんなにないんですよ。物語の中で主人公が何をするのか、なんてのは大体がある程度のパターンの組み合わせでしかないからね。映画だけじゃなくて小説とか絵本とか漫画とか、多くの物語に触れている人なら大体は似たようなお話である、というのは実感として知っているだろうと思う。
だから斬新なストーリーというものはほとんど無い(一応ゼロとは言わないでおくが)ようなもので、それが斬新に見えるのであるとすればストーリーと設定の組み合わせが突飛なもの、あるいはストーリー自体はありふれているけど主人公の個性が今までに無かったようなもの、という合わせ技であることが多いと思うんですね。それでいくと本作はストーリーと設定と主人公像の全部が上手くかみ合って面白い物語となっていたと思う。
お話はジャンル的にいえばSFもの、それもディストピアSFといった風情なのだが、舞台は近未来のアメリカで、そのアメリカというのは人間が日々眠るときに見る夢にも税金をかけるようになっている世界なのである。主人公はその夢税を徴収する役人で、夢税が未納の人を訪ねていってはその人の夢の中身をチェックして「あぁアナタ、こういう夢を見ていたんですね~、この夢は○○セントですね~、未納分の合計はこれだけですね~」と税金を持っていくお仕事をしている。そんな主人公がある夢税未納の老婆の元を訪ねたのだが、その老婆の夢をチェックする内に夢の中の若き日の老婆に恋をして…というお話です。
ストーリーだけで見れば親子くらいの年の差の恋愛モノということで、まぁそういうお話もあるよねって感じだが、本作ではリアルでは老婆だが夢の中の若い頃の彼女にときめくという設定で、それがフックとなっているわけである。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも危うく実の母が息子に惚れそうになったりしたが、その変形版という感じですな。しかも夢に税金をかけるというネタも面白い。まぁそれ自体は70年代辺りのSF小説を探せば元ネタがありそうな気もするが、少なくとも俺は知らなかったので新鮮に楽しめた。この物語と設定の時点で勝ったな、という感さえするほどである。
ま、お話が進んでいくと上記したようにディストピアものという部分が前に出てきて、あぁこういう感じかー、という既視感を感じるようにはなるのだが、それでも序盤から中盤までの独特な雰囲気は一見の価値ありだと思いますね。基本的に低予算な映画なんだけど、設定通りに描かれる色んな夢の世界はストップモーションや特撮を駆使して客を飽きさせないよう工夫されているのも好感度が高い。
まぁ結局『ゼイリブ』をやりたかっただけですよね!? みたいな感はあるが、ちゃんとドリーミンな夢世界という『ゼイリブ』とは違う手法でそれを描いているのでちゃんと個性は立ってると思いますね。あと『ゼイリブ』といえばどう考えても不自然すぎる長さの喧嘩シーンがあるが、本作でもそう考えても不自然すぎる長さの火事シーンがあったのでもしかしたら『ゼイリブ』リスペクトなのかもしれない。いやそんな尺稼ぎをリスペクトすんなや!
ちなみに映像自体もおそらく古いフィルム映像を意識した処理がされていて、エンドロールの字幕とかもわざと若干滲ませたりしていたと思うので意図的に古いSF作品の雰囲気を出そうというのはあったんだろうなと思う。美術全般もレトロ趣味な感じだったしね。そこは別に普通でいいだろとも思うが、個人的にアメリカのレトロ感は好きなので何だかんだいいなぁと思ってしまった。やたら音のデカい劇伴は何なんだよ…ってなったけど。
あと、これもおそらく意識したんじゃないかと思うが、今敏の『パプリカ』をもっとディストピアSFにした感じもあり、またミヒャエル・エンデの『モモ』っぽい風刺もありで結構好きでしたね。絶賛するというほどでもないが面白いSF映画だった。そういうのが好きで、機会があればどうぞって感じですね。
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