真一

世界は僕らに気づかないの真一のレビュー・感想・評価

世界は僕らに気づかない(2022年製作の映画)
4.1
無自覚な差別意識と
偏見に覆われた
日本社会の片隅で、
地べたを
這いずりながらも
ひたむきに生きる
マイノリティー母子の
物語です。

フィリピンパブ勤めの
貧しい母親リサ。
民族差別に加え、
ゲイ差別にも
苦しめられている
高三息子の純悟。

社会から見捨てられる
哀しみと怒りを、
家庭という密室の下で、
母は子に、
子は母に、
ぶつけてしまう。
その切ない展開が、
胸にずしりと迫ります。

同時に、この母子に対して
見てみぬふりを
してきたのは、
私たちマジョリティー
自身だという事実に
気付かせてくれます。
力作です。

主人公の純悟は
母親リサを恨んでいた。
アパートの電気を
止められるほどの
金欠なのに、
まだフィリピンの
家族への送金を
続けていたからだ。

タガログ語訛りで
「マミーは大丈夫」
「仕事頑張る」
「怒っちゃダメ」
と繰り返すリサ。
それを見た息子の心に

「日本人には理解不能の母親」
「恥ずかしいフィリピン女」
「お前がいるから差別される」

という、憎しみに似た
感情が宿ります。
悲しすぎます。

その純悟にはもう一つの
耐え難い苦しみがあります。
同級生・優助と
相思相愛であるがゆえに浴びる、
マジョリティーからの
侮蔑と嘲笑です。

「オカマチャーン笑」
「ボクのお尻もイケる?笑」

耳を覆いたくなるような
高校生たちのヘイトスピーチに
涙をこらえながら耐える純悟。
等身大の現代日本が
ここにあると
痛感させられます。

路地裏のフィリピンパブ。
カラオケ。どや顔。嬌声。
セックス。妊娠。母子家庭。
北関東の夕暮れ。私鉄電車。
大好きな優助。
飛び交う嘲笑とヘイト。

リサと純悟は安住の地を
見つけられるのか。
純悟と優助の未来はー。
ここからはぜひ、
本作品をご自身の目で
お楽しみください。

監督は、自身も
トランスジェンダーを
カミングアウトしている
群馬県在住の飯塚花笑さん。
本作品は、
マイノリティー当事者から
日本社会に向けられた
メッセージにほかなりません。
冗漫な印象を与える
シーンもありますが、
総じて観やすく、
理解しやすいです。
多くの方に観て
いただきたい一本です。
真一

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