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ちょっと思い出しただけのcalinkolincaのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
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今日は「ちょっと思い出しただけ」を。
ジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」に着想を得た作品だそうで、めちゃくちゃ「ナイト・オン・ザ・プラネット」が観たくなった笑

別れたあとの男女のある1日だけを6年間、振り返っていくお話。だから、このふたりはどうして別れちゃったんだろう?と思うと1年前に戻ってその理由が分かるし、このふたりはどんな風に付き合ってたんだろう?と思うとまた戻って理由が分かるし、ふたりはどんなきっかけで付き合ったんだろう?と思うとまた戻って、その理由が分かる。そして更に戻って、映画は出会いの理由にまで巻き戻る。逆回転式「花束みたいな恋をした」というか。この構成がとても面白い。

伊藤沙莉さん演じる葉が劇中でタクシーの仕事の好きなところを聞かれて、「どこかに行きたいけどどこに行っていいかわからない、でもこの仕事ならお客さんを運ぶことで遠くに行ける」って答えててそれがなんかすごく良いなぁって。葉は池松壮亮さん演じる照生と行った水族館でも「世界に二人だけみたい!」って言うんだけど、夜のタクシーも二人きりの水族館もキラキラした箱の中みたいで、特別な空間だよなぁって。

主演の池松壮亮さんと伊藤沙莉さん。ほぼこのふたりの会話劇なのだけれど、ふたりの雰囲気がとてもリアルで、池松壮亮と伊藤沙莉じゃなくて、照生と葉にしか見えなかった。冒頭の冷めきってしまったふたりから出会ったばかりの仲良くじゃれ合うふたりに戻って行く姿が切なくて切なくて、胸がぎゅうっと締め付けられた。「ラ・ラ・ランド」でも思い知らされた「人生は不可逆」その事実が、あまりにしんどかった。

素敵な作品だったから、劇場で観たかったな。無理をすれば、今日自宅でレンタルでこの作品を観る今日じゃなくて、パンフレットを胸に抱いてホクホクしながら劇場を出る1日もあったのに。けれど人生は不可逆。照生も葉も彼らのまわりの人々もそして私も、また前へ、明日へ進むだけ。
「ちょっと思い出しただけ」、今年観た映画のなかで私はいちばん好き。
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