クロスケ

ちょっと思い出しただけのクロスケのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
3.9
ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』にオマージュが捧げられているという時点で、少しばかりの欠点など大目に見てあげたくなるというものです。

夜の東京の街を緩やかに疾走する一台のタクシー。ハンドルを握る伊藤沙莉の姿にロサンゼルス編のウィノナ・ライダーが重なる冒頭の件を見た瞬間から、私の心は速やかに武装解除していくのでした。乗客の高岡早紀に向かって「お金は必要だけど重要じゃない」と語る伊藤沙莉の台詞はニューヨーク編のチェコスロヴァキアからの亡命ドライバーのものだし、渋川清彦ら酔っ払いトリオを乗せる件はヘルシンキ編を思わせます。各シークエンスのファーストカットに挿し込まれるフリップクロックもそうだし、永瀬正敏のキャスティングもジャームッシュ作品との関連を意識せざるを得ません。

とは言え、そんなことを差し引いたとしても、本作は充分魅力的な映画たり得るでしょう。何気ない日常の些細な変化の積み重ねが、登場人物たちのきめ細やかな表情と相まって、豊かな時間を約束してくれています。
メインキャストから脇役に至る俳優陣の見事なアンサンブルは勿論、池松壮亮と伊藤沙莉の二人を捉えたときの画面の潤いは一見に値します。
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