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赤いハンカチのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

赤いハンカチ(1964年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

元刑事の三上は、同僚の石塚を守ろうとして麻薬組織の容疑者を射殺したことに責任を感じて辞職。肉体労働の仕事についていた。そんなある日、かつて自らが起こした事件の裏に陰謀が絡んでいたことを知った彼は、真相を突き止めようと港町・横浜に舞い戻る。

多くの歌はラブソングである。
歌に合わせた恋愛や青春モノが昔から歌謡ドラマには多いのだが、本作はシブいハードボイルド。
ストーリーも緻密で、サスペンスと謎解きミステリー、アクションにロマンスと、娯楽映画の要素が詰め込まれた秀作である。

冒頭は、まだあどけなさが残る刑事・三上役の裕次郎とヒロイン・玲子役の浅丘ルリ子の爽やかな恋模様が微笑ましい。
容疑者の娘だが、工場で貧しくも健気に働く玲子に惚れる三上。
工場への通勤途中に目にゴミが入ったのを取り除くシーンは青春映画の一幕のようだ。
だが後日、護送中に同僚の石塚から拳銃を奪い、逃げようとした玲子の父を、三上は止むなく発砲して射殺してしまう。
世論の厳しさよりも「父を殺した貴方を許せない」と怨む玲子の言葉に罪悪感を感じた三上は辞職する。

それから3年、三上は北海道のダム工場で働いていた。
発破による大規模な爆破を伴う昭和のインフラ工事がなかなかスペクタクルで壮観。
傷心のあまりにやさぐれて、日雇い労働者となって各地を転々とする三上は、まるで西部劇に出てきそうな孤独で訳アリの流れ者である。

神奈川県警の土屋警部補の訪問を受けた三上は、石塚が玲子と結婚し、今は大実業家になっていると知らされる。
しがない刑事にそんな資本がどこにあったのか?
土谷は石塚の成功の裏には三年前のあの事件が関わっていると言う。
事件は麻薬取引の金の横領を狙った元同僚・石塚の仕組んだ罠では?
三上はその謎を解くため、再び横浜に帰り、真相究明に乗り出していく。

裕次郎が物悲しい「赤いハンカチ」を流しとして唄いながら夜の街を練り歩くシーンは昭和の香りがして懐かしい。
高度成長期の夜の繁華街と狭い路地裏が、当時の賑わいと夜の怪しさを感じさせる。
横浜の洋風な石造りの建物が外国のハードボイルド映画のような雰囲気が出していて、なるほど無国籍映画だ。

石塚が差し向けた殺し屋に遭遇するが、三上は相手に重傷を負わせ、指名手配される。
電話で部下に三上を必ず殺すよう命じる石塚の残酷さに恐怖を感じる玲子。
父親がが殺されたのは、石塚の陰謀だと知り、玲子の心は再び三上に傾いていく。
裕次郎と浅丘のラブシーンでベッドに横たわった浅丘が両足のヒールを脱ぎ捨て覚悟を示すシーンの、体を這うようなカメラワークとヒールのアップがエロティックで印象的。
だが、裕次郎は「俺は、これ以上君を抱くことはできない」と玲子への罪悪感を打ち明ける瞬間は、まさにハードボイルド(痩せ我慢)で、自分のルールに厳しい古風な男らしさだ。
現代なら、愛を掴み取ってメデタシメデタシと演出するだろう。

玲子から全てを知った三上は石塚に詰め寄るが、謀殺の物的証拠はない。
自白と共に高らかに笑う石塚に「証拠がない以上、法では裁けない。そのかわりこの拳銃で裁いてやる」と石塚に銃を向ける。
その時、影で全てを聞いていた玲子が、一瞬早く父親の仇である石塚に発砲する。

石塚は、土屋警部補に「自殺したと証言してくれ」、三上には「玲子を幸せにしてくれ」と言って死ぬ。
石塚もまた本気で玲子を愛していたのが伝わってくるのが悲しい。

石塚の自白の一切を土屋警部補が録音していたが、土屋はテープを焼却した。
玲子が事件に関わりのない者とするためである。
その思い遣りにも胸が熱くなる。

墓参りの後、玲子と別れて三上が1人で旅立つエンディング。
父親を殺し、夫を殺した自分と一緒になっても辛い思い出が蘇るだけ。
黙って去る三上の背中がそう語っている。

ラストシーンの構図が似ているので気づいたが、ストーリー自体は、友人の死の真相を巡るミステリー「第三の男」がモチーフ。
多少シナリオのおかしな部分はあるものの、映像としては全盛期の渋くてカッコいい裕次郎と可憐な浅丘ルリ子のスターのオーラに酔う。
脇役も名脇役・金子信雄と江戸っ子口調の落語家・桂小金治が昭和の時代の人情味溢れる良い味を出している。

程よい謎解きと登場人物それぞれの感情描写もあって、今見ても充分に楽しめる作品だ。
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