よしまる

叫びとささやきのよしまるのレビュー・感想・評価

叫びとささやき(1972年製作の映画)
3.9
 前回レビューのウディアレン「インテリア」。彼が尊敬してやまないベルイマンの作品の中でも同じ「三姉妹」を描いた作品として有名なのが「叫びとささやき」。

 物語や設定は実はあんまり似ていないのだけれど、精神世界をインテリアやファッションの色になぞらえてみたり、日記やパールのネックレスなどアイテムに共通性がみられたり、符号する部分がそこかしこに出てくる。なにより人間の内面へと深く静かに潜り込んでゆくベルイマンの作風こそが最大のオマージュということなのだろう。

 話を本作に戻して。スウェーデンの裕福な家庭に育った三姉妹そしてメイド、4人の女性の物語。

 長女は「野いちご」「冬の光」のイングリッド・チューリン、次女は「不良少女モニカ」のハリエット・アンデルセン、三女は「仮面ペルソナ」のリヴ・ウルマンと、ベルイマン作品オールスター、まるで市川崑の細雪状態の趣きだ(ちょっと違う)。

 ジャケットからもわかる通り、赤で統一されたインテリアの印象が鮮烈。

 一部に赤を持ってくるとそこだけが目立ってしんどいのだけれど、天井壁カーテンなどすべてを赤で埋め尽くせばそれはそれで統一された空間になり逆にしっくりと馴染む。とは言え、性的なエネルギーや欲望を具現化する色でもあり、その興奮に満ちた空間に響く「叫び」の凄まじさたるや、実際にその場所に出くわしたらとてもいたたまれないことだろう。

 もちろん、作為的な演出には違いない。
三姉妹とメイドの過去を描く際には、それぞれの顔をアップにして、暗転ならぬ「赤転(?)」させる場面転換。
 ただ、時には真っ白な世界が広がったと思えば、時には半分が黒に染まった(その表現のほとんどは影)世界に沈み込んでいったり、登場人物たちの心象風景が「色」によって見事に移ろいゆく。これぞベルイマンといわざるを得ない、人間の内面をアートとして魅せる職人芸だ。

 生きる者と死にゆく者の胸に去来する過去の幻影。忘れがたい美しい思い出と、忘れ得ぬ苦しみや痛み。
 究極として、甦る死者の呼びかけが現実と虚構を曖昧にさせて観客もいつしかこの今という時とどう対峙して良いのかわからなくなってくる。

 悲惨で、残酷で、陰惨で。愛する人も、神父も、神さえも無力なこの世界に救いなどどこにもないのだろうか。

 否。ベルイマンは徹底して逆張りしているだけなのだ。でなければ、こんなに美しい物語は描けない。