しの

ホーンテッドマンションのしののレビュー・感想・評価

ホーンテッドマンション(2023年製作の映画)
2.8
2003年版と比べ、アトラクションをベースに構築しているのがよく分かる。VFXによる幽霊屋敷の超常ギミックは確かに楽しい。ただ、アトラクションの設定を再現するというディズニーの大人たちの使命と、今回意外にも入れ込んできた「大切な人の死」に関する切実なテーマが全く噛み合わないので、尺が長いのに大味だった。

主人公が妻との思い出を涙ながらに語るシーンなんかは、あれ単体でわりとグッとくる位には良かった。だからこういうドラマを入れてきたのは評価したいのだが、全体と調和していない。「死者には会えない」の一線を守るのは誠実だと思うのだが、その一方で幽霊とスラップスティックやってたりするし。

本質的な問題は、幽霊がどんな存在なのかがフワッとしたまま進行することだろう。一応、悲しい魂は現世に留まってしまう、みたいな説明はあるのだが、じゃああのオチって良くなくない? とか、そもそもこの幽霊たちってあの世から召喚されたんだよな? とか、あれ意外と簡単に屋敷から出られるの? とか、観ていて色々と疑問が湧く。この不整合さは作品のあらゆる所で表出していて、例えば前半では屋敷の主の悲劇の話をしていたのに後半では殺人鬼の話になるとか、ホラー的に見せていた幽霊がクライマックスではコメディの道具に成り下がるとか、どんどん映画として一貫性がなくなっていく。制作のドタバタが垣間見えるのだ。

これなら最初から「ハットボックス・ゴーストが支配している幽霊屋敷」で良かった気がする。彼を主人公と鏡像にして、「未練のある死を迎えた悪霊が悲しき魂のエネルギーを集めて現世に復活しようとする」みたいな話にすれば、亡き妻との再会を望む主人公と対比関係が作れたのではないか。死者は死者で未練を克服して成仏しないといけない。ホーンテッドマンションは道半ばの霊が集う場所だから、覗くと楽しそうだけど実は物悲しい。だから生者も彼らを留めないように、日々の中で想いながら生きていこう……。みたいなオチにすれば、アトラクションとの整合性も取れるなぁとか、色々と考えてしまう。

こういう不整合な作りなので、やはり尺は長く感じたし、実際長いと思う。群像劇的になってはいるものの、終盤でドサクサ紛れに各人の成長が描かれるだけで、それらが主人公のドラマとほぼ絡まないし、その割に屋敷の安全地帯や祭壇室といった決まった場所で会話している場面がやたら多い。わりと気軽に屋敷を出入りするのも散漫だし緊張感が削がれる。やはり屋敷の内部で完結させてほしかったし、もっと色んな部屋を見たかった。タイトに整理して、2023年に作るホーンテッドマンションならではの視覚効果と、誠実なドラマを両立させてくれれば……と、まさに未練を抱えざるを得ない作品だった。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】色々ガタガタ?ホラーとコメディのバランスに難アリな『ホーンテッドマンション』
https://youtu.be/us6wHbGI54Y?si=4Qq3GEM2l-9AHLHL
しの

しの