映像観し者

名付けようのない踊りの映像観し者のレビュー・感想・評価

名付けようのない踊り(2022年製作の映画)
3.5
ダンサー田中泯を追いかけるドキュメンタリー。
メインとなる田中泯以外の人物が中心になるシーンを持たず、ナレーションも田中泯が行うので、映画全体が個人で完結している。さらにドキュメンタリーだが、田中泯が語る子供時代をアニメにしたりと工夫がある。田中泯と観客というダンスの構図に映画を近づけようという試みなのかも。
田中泯のダンスの成立過程、その途上でのパリでの評価への思い、俳優仕事へのスタンス、表現方法の試行錯誤とそこにある思想、といった氏のパフォーマンスとその考えについてなぞることができる。
ダンサーとして評価される過程でかなり意欲的に他の表現者と戦う姿勢があったり、一度評価された際に「パリで教室を開いて流派を作れ」といった商業的なアドバイスに対して「嫌悪」とバッサリ切り捨てたり、その表現への率直な姿勢が明確な言葉になっており楽しい。
対象の時間、身体、存在を想像力によって自身の身体に写す。一匹の蜘蛛と自身の身体の間にダンスを作る。その表現の向き合い方は、ダンス門外漢としても非常に引き込まれるものがあった。
ここまで想像の翼を拡げて生きるのは、物質に縛られる社会においてかなり困難なことだということは、表現者でなくても想像可能だ。

アニメを使う手法がさほど効果的に思えず、またやたら安っぽいCGもあり、その点マイナスの印象。
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