のっち

僕とオトウトののっちのレビュー・感想・評価

僕とオトウト(2020年製作の映画)
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悩ましく恣意的で悲しい

弟のことを知るためにカメラを向ける監督。
“自由”にさせると車に乗せてもらって寿司屋とびっくりドンキーに行き美味しそうに頬張るオトウト。ふいに弟が「パパは?」と聞くことで、家族とご飯を食べることを幸せだと見せる編集。
部屋中の鍵を開けたかと思えばオトウトがボヤ騒ぎを起こす。父親に怒りをぶつけてその後は見せない。
オトウトのことを知りたいと作中では言いつつも、見えてくるのは監督の恣意性と葛藤。福祉の立場から見ると、本人に許可を得ずに撮影してるだろうなと感じる時点で、この監督は何を勉強してきたのかと疑問に思う。映画としても、無理やり物語としてハッピーエンドにしようとする、撮ること・編集の暴力を感じる。

しかし、そんな私も自分の価値観を投影してしまう恣意性に気付かされた。見たいものを見ようとする観客としての暴力はまさに「深淵を覗くものもまた深淵に覗かれる」を気付かされる。

さらに監督の視点以外にも、母の視点や父の視点も伺える。オトウトの実習に対する母親と監督の眼差しは違う意味があったんじゃないかと感じる。

「せつない」「悲しい」と訴えていた監督が今後色んな経験をして、映画や障害学を勉強して、この映画をどう振り返るかがとても気になる一作。
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