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Arthur Rambo(原題)のukigumo09のレビュー・感想・評価

Arthur Rambo(原題)(2021年製作の映画)
3.1
2021年のローラン・カンテ監督作品。1999年に工場の労働者と管理職の軋轢についての物語『ヒューマン・リソース』で長編デビューした彼は、続く『タイム・アウト』でも一流コンサルティング会社を解雇された男の物語を描き、雇用問題への関心の高さを見せていた。3作目の『南へ向かう女たち(2005)』でハイチでのセックスツーリズムを描いてから、彼の社会的および政治的関心はより国際的な視点を持つようになり、カナダで撮った『フォックスファイア 少女たちの告白(2012)』、ハバナで撮った『Retour à Ithaque(2014)』ではそれぞれ英語、スペイン語での映画作りに挑戦している。彼の代表作としては間違いなくカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『パリ20区、僕たちのクラス(2008)』が挙げられるだろう。主人公の国語教師にとって生徒たちの学力だけが問題ではなく、移民、人種、格差など様々な所に火種があり、適切に対応しないと大問題に発展するという展開は教室からSNSの世界に移行する形で『アルチュール・ランボー』に引き継がれている。
本作『アルチュール・ランボー』はメフディ・メクラット事件におおまかに基づいている。20代半ばだった人気ラジオコラムニストのメフディ・メクラットは「民族の多様性と恵まれない地域の代弁者」というイメージがあり、友人と出版した小説も話題だっただけに、マルセラン・デシャン名義で行った過去のツイートが掘り起こされた際、大きな論争が巻き起こった。そこには人種差別主義、黒人嫌悪、反ユダヤ主義、イスラム嫌悪、同性愛嫌悪、女性蔑視などが含まれえており、大炎上し、活動が制限されてしまう。

新進気鋭の作家カリム・D(ラバ・ナイト・ウーフェラ)は彼の新作小説『上陸』で移民としてアルジェリアからフランスにやって来た母の人生を描いており、出版社が主催する記念パーティーに行ったりWeb番組に出演したりとSNS時代の文壇の寵児としてセレブの仲間入りを果たそうとしていた。そんな時、彼についてのニュースがネット上で流れ始める。彼が10代の頃「アルチュール・ランボー」名義でSNSに投稿していた、人種差別的で、同性愛嫌悪、女性差別などを多分に含んだ卑劣なブラックユーモアに彩られたツイート内容が問題となり、出版が取り止めとなる。出版業界では彼がそういった内容のツイートをしていた事が、作品の内容と違いすぎて多くの人がショックを受けた。一方、彼をデビュー前から知っていた者たちは、初めはその過激な内容で出版業界から注目を知っていたが、今は擁護することができないほど炎上してしまっている。当のカリムは注目を集めるためのツイートは無害で明白なジョークなので、真に受けるバカはいないと高を括っていた。しかし出版業界の近い人物から激怒され、郊外に住む彼女との間にも距離ができ、母親からは自分が言うことも信頼されなくなると嘆かれる。どうするにも身動きがとれなくなったカリムは編集者などの出版社のチーム、パリの友人たち、郊外の仲間たち、母親と弟に自分自身のことを説明する事になるのだが、悪ふざけだったではすまされないほど深刻な事態に陥った状況で、自分自身の事を正確に把握できていない彼にとって「アルチュール・ランボー」について自身で理解するのはジキル博士がハイド氏を理解するほど困難な事であった。

この映画では過去のSNSを掘り起こされて大炎上した若手作家について、同情的でも批判的でもないフラットな位置から彼を見つめているのが特徴だ。彼を裁く事なく、困惑は困惑のまま映画を終わらせており、観る人に考える余白を与えているので、ただSNSの使い方には注意しましょうという映画より余韻が残るのだ。カリムが用いたアカウント「アルチュール・ランボー」とは20歳で文学と縁を切った早熟の詩人から取っているのは明白だが、ランボーの綴りは「Rambo」となっており、シルヴェスター・スタローンが演じる人気キャラクター「ランボー」と一致しているのも映画ファンには興味深い所だろう。
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