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SAYONARA AMERICAのclementineのレビュー・感想・評価

SAYONARA AMERICA(2021年製作の映画)
4.0
細野晴臣は音楽家として様々な側面を持っているが、こと自作曲を自身で歌うことに関して、かつては、積極的にしていなかった。2005年9月の狭山で行われたハイドパーク・ミュージック・フェスティバルで、過去の曲を歌で披露し、歌う面白さに目覚めた彼は、それ以降、積極的にボーカルを取りライブ活動を行う。
並行して行っていたのが、自身のルーツとなったアメリカの音楽の再確認であった。カントリー、ブギ、ロックなど、それらを演奏するためにバンドを組み、最終的にメンバーとなったのが、高田漣(gt.) 伊藤大地(dr.) 伊賀航(ba.) 野村卓史(key.) 細野晴臣(vo. gt.)である。
今回のUS公演は、十数年に渡り、彼らが培ってきたグルーヴの集大成となる。40s・50sの当時の人々が奏でていたノリを構築することに、バンドの焦点は合っていたのだろうし、それは現地のオーディエンスが語っていた「生まれて以来、最も"アメリカ"を感じた夜だった。」という言葉から受け取れるように、成功したといえるだろう。
アレンジが施されたオリジナル曲にどうしても注目してしまうが、それらオリジナル曲とカバー曲に通底している40s・50sのノリを再現したバンドアンサンブルこそ、この映画及びライブのポイントだと思うし、そのバンドアンサンブルは十数年かけてじっくり作り上げたものであるという点は、鑑賞に際し、押さえておいていいと思う。

舞台挨拶で、久々に目にした髪の伸びた細野さんは、黒の少しゆったりしたスーツとナイキのスニーカーで格好良かった。
佐渡監督も細野さんも、収録した映像を、過去のもの、つまりコロナ前の記憶と捉えることで、今見ることの意味が立ち上がってきた。という意の話をしていたと思う。

映画本編については、ライブ映像なのに正面からの固定アングルがなかったのが残念だった。
挿入される、古い映画の映像が面白く、この映画ならではの演出であったと思う。
2021年の細野さんの映像とモノローグもとても良かった。

そして、エンドロールの『Sayonara America, Sayonara Nippon』は素晴らしいアレンジだった。『Hochono House』で垣間見えた、映画的な音響処理を音楽にもってくる課題がとても上手くいったように聴こえた。また一つ、新たな進化を遂げた出来であった。

In Memories of No-Masking World...
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