幽斎

デスパレート・ランの幽斎のレビュー・感想・評価

デスパレート・ラン(2021年製作の映画)
4.0
レビュー済「コンティニュー」ハリウッド屈指の演技派&人気女優Naomi Wattsがほゞ一人出突っ張りのワンタイム・スリラー。和風のイオン京都桂川で鑑賞。

初めにお断りだが、レビューが少ないのは訳が有る。アメリカのインディペンデント系ヴァーティカル制作だが、日本の配給はイオンで上映館が非常に少なく、レビューを書いてる公開2週目で全国で僅か56館。京都はイオンとMOVIXの2館だが、奈良と滋賀はゼロ、岡山、鳥取、山口、徳島、高知もゼロ。島根のTジョイ出雲が逆に凄い(笑)。

オーストラリアの名うての職人Phillip Noyce監督最新作。COVID真っ只中の2020年に制作。代表作はテクノ・スリラー(ハイテクと言う意味では無い)の神様Tom Clancy原作「パトリオット・ゲーム」「今そこにある危機」。Nicole Kidmanの実質デビュー作「デッド・カーム/戦慄の航海」、Sharon Stone主演「硝子の塔」、Angelina Jolie主演「ソルト」等、スリラーと人気女優のコンパイルが得意。

「[リミット]」「ATM」「恐怖の人体研究所」レビュー済「グリーンランド 地球最後の2日間」、一貫してシチュエーション・スリラーを得意とするChris Sparlingのオリジナル脚本。作品の性質から当然演技派女優が求められるが、当初は別の女優が選ばれたが、主演が制作に名を連ねる事で交代、トロント映画祭でプレミア上映。

Naomi Watts 55歳!9月28日、本日がお誕生日!おめでとう!。生粋のイギリス人だが両親の離婚で祖母の出身オーストラリアのシドニーに移住。演劇学校に在籍時、オーディションで知り合った世界最高峰の整形美魔女Nicole Kidmanとは今でも役を交換し合う無二の親友。レビュー済「ウルフ・アワー」もKidman主演で進められたが、レビュー済「ストレイ・ドッグ」脚本が気に入り、親友にバトンを譲ったのは有名な話。

北米では2021年に公開されたのでレビュー済「グッドナイト、マミー」とは公開順序が逆転。当初は「Lakewood」と言うタイトルで製作、読んで字の如く「湖畔」だが、アメリカではオハイオ州エリー湖の通称が有る為「The Desperate Hour」絶望的な時間、イギリス英語で離れ離れに変更。しかし、日本のイオンは「デスパレート・ラン」必死に走る、作品の意に沿わないタイトルで貶めてしまう。Wattsの親友で私の好きなJason Clarkeも「出演」してるので、捜してね(笑)。

Wattsは「スポットライト 世紀のスクープ」Liev Schreiberとパートナーで長男と次男を授かるが、その後離婚し仏教へ改宗したらしいが、本作への出演も銃社会への危うさ、繰り返される学校での銃撃事件に対する理不尽さに突き動かされたとインタビューで語る様に、女優と言うより2児の母親と言う視点のインパクトが強い。秀逸なのはスマホ一つで事件の真相と息子の安否の二兎を追う展開。

私は劇場で観て「安楽椅子探偵だな」と。Armchair Detectiveはミステリー小説の中でも究極の探偵、現場に赴く事無く能動的に事件の情報を収集せず、室内に居たまま外部の情報のみを頼りに推理する。有名なのはハンガリーを代表する推理小説作家Baroness Orczy著「隅の老人」。難しいのは探偵がロジックの破綻を読者に感じさせず、且つレトリックを与えると言う相反する構成が要求される。此のプロットの応用して、倒叙ミステリーの傑作「刑事コロンボ」と安楽椅子探偵を足したモノが「古畑任三郎」。

84分と言う短時間で事件は解決(笑)、現場へ「あと何k」「あと何分」タイムラインが観客とWattsを同期させ、一緒にゴールを目指す展開は飛び抜けて面白い訳では無いが、手堅く纏める事なら天下一品の監督の手腕が本作でも冴え渡る。母親として女性として困難に立ち向かう姿を「インポッシブル」「21グラム」2度のノミネーション、最もオスカーに近い女優の一人Wattsの会話だけの一人芝居は見事な吸引力でシチュエーションを突っ走る。もし、一歳年上で最初の候補Nicole Kidmanが演じたら?。

本作のテーマは「School shooting」。アメリカでは銃乱射事件をアクションのスリルとして冷淡に利用、攻撃的な囮で観客の恐怖を弄んだと散々な云われ様。確かに息子のノアが人質なのか犯人なのか?、観客に十分なサジェスチョンを与えず、スクールシューティングの犯人が精神病者かアウトサイダーとカテゴライズされる通り、映画と現実との繋がりを放棄する展開は、被害者家族に目新しい啓蒙を促すには至って無い点は私も同意する。実際に起きうる事件をスリラーの比喩に留めたので、賛否両論も致し方ない。

本作を評価する理由は紛れも無くアメリカで言う「COVID disaster movie」として一級品と言う事。レビューをご覧の方はエンドロールを最後まで見る事で製作者へ感謝を伝えてると思うが「COVID Consultant」と言うクレジットを目にした事が有るだろう。ハリウッドでは撮影時のソーシャル・ディスタンスをドウ確保するのか試行錯誤を繰り返す中、感染経路を防ぐ為に俳優同志が直接面と向かって台詞を吐くシーンを減らす演出、脚本にこの3年間腐心するが、一番簡単なのは「一人芝居」。

私の生涯一位作品「SAW」ワンシチュエーションが日の目を見るのは皮肉だが、Wattsの知的な演技の横軸、84分を走り切る行動的な縦軸の演技が、作品にリアリティを与える。演出もリアル・スリラーの傑作「ユナイテッド93」彷彿とさせるPaul Greengrass監督的なスピード感で、監督の「腕」が落ちてない点も密かに嬉しい。スリラーの模範解答的なテンプレに見えるかもしれないが、職人らしく見てる間は破綻せずゴール出来たのは、私は褒めて良いと思う。「Lakewood」由来のカナダのオンタリオの美しい森林風景も癒し効果満点。私は事件後にWattsがお世話に成った人々にお礼の電話をするのが目に浮かんだ。最近のハリウッドは長くても120分と言う暗黙の了解を破る大作が多い中、仕事帰りのレイトショーで「こう言うので良いんだよ」割と満足して家路に着いた。

私はXperia一択だが、EUは充電をUSB-Cで統一すべきと決定した、ですよね(笑)。
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