ぶみ

キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのぶみのレビュー・感想・評価

4.5
彼はなぜ警官に殺されたのか?

デビッド・ミデル監督、脚本、モーガン・フリーマン製作総指揮、フランキー・フェイソン主演による実話をベースとしたドラマ。
無実の黒人が白人警官に殺害されるまでの過程を描く。
主人公となる黒人男性ケネス・チェンバレンをフェイソン、彼の家に安否確認のため駆け付けた警官として、エンリコ・ナターレ、スティーヴ・オコネル、ベン・マーテン等が登場。
物語は、2011年11月19日に、ニューヨーク州ホワイトプレインズ市の自宅アパートで、チェンバレンが警官等と争いになり、射殺された事件の一部始終を描くのだが、恥ずかしながら、この事件については、本作品で初めて知った次第。
冒頭、チェンバレンが医療用通報装置を誤作動させてしまったシーンでスタート、以降、警官が安否確認のため、彼の家を訪れたものの、家に入ることを拒むチェンバレンと言い争いとなり、最終的に発砲するまでの約90分間を、実際に起きた時間の流れとほぼ同じリアルタイムで描くという、ワンシチュエーションものとして進行。
最初は単なる誤作動が、最終的に殺害という最悪の自体に陥ってしまうのだが、その根底には、黒人差別や、チェンバレンが双極性障害を患っていることによる障害者差別が横たわっているため、ここはアメリカだけの問題ではなく、自分事として捉えたいものであり、監督自身も自閉症スペクトラムであるとのことであるため、その思いがヒシヒシと伝わってくる。
実話をベースとした作品としては、同じく警官の黒人に対する差別が暴走した様を描いたキャスリン・ビグロー『デトロイト』を思い出させるものであるとともに、何より、本作品の臨場感、緊迫感たるや、アメリカ同時多発テロでハイジャックされた機内を描いたポール・グリーングラス監督『ユナイテッド93』に負けず劣らず。
また、些細なことが、あれよあれよと言う間に、悪い方向へ転がり落ちてしまう様子は、ジャンルは違えど、マーティン・マクドナー監督『イニシェリン島の精霊』と通ずるものであるし、最近では森達也監督『福田村事件』との共通項も少なからず感じたところ。
そして、てっきり、イメージビジュアルにフリーマンの文字があったため、つい最近まで主演がフリーマンだと勘違いしていたのに加え、チェンバレンと言えば、90年代に千葉ロッテマリーンズに在籍した外国人選手を思い出したのはご愛嬌。
客観的事実を正確に伝えていなかったり、はたまた、大枠しか合っていなかったりと、実際の出来事から着想を得たフィクションと呼ぶべき作品が、実話に基づいた物語と称していることが多い中、本作品は、少なくとも音声によるやりとりは記録として残っているであろうことから、実際に起きたことを再現したリアルタイムドラマとして、一瞬たりとも目が離せず、強烈な映画体験をすることができる傑作。

私は苦しみをもって尽きる。
ぶみ

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