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キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのTSのレビュー・感想・評価

4.2
【意地の張り合い】89点
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監督:デイビット・ミデル
製作国:アメリカ
ジャンル:スリラー
収録時間:83分
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 去年から興味があり劇場で鑑賞したかったのですが叶わず、サブスクで配信されたので観ました。80分だけの映画なのにかなりの緊迫感。実話を基にしており、一言で言うと、絶対に部屋に入れたくない元海兵老人と、絶対に中に入り安全を確認したい警察官達との攻防戦です。未だ根強く残る黒人差別問題を取り上げるために、モーガン・フリーマンが制作指揮をとったとのこと。最初から最後までひたすら緊迫感があり、また考えさせられる作品となっております。去年見ていたら間違いなく5本の指に入っていたであろう良作でした。

 2011年、双極性障害を患う元海兵のケネス・チェンバレンは就寝中に誤って医療用通報装置を作動させてしまう。異常を感知した会社は警察に連絡し、白人警官3名が安否確認にくるのだが。。

 ここから緊迫の80分が始まります。この作品、非常に考えさせられます。一見、公権力を濫用していそうな警官側に非がありそうな気もしますが果たしてケネスが全く悪くないと言い切れるのでしょうか。警官側としては、安否確認のために来たものの、ドアも開けずに頑なに入室を拒否されます。彼が住むアパート、及び周辺地区はあまり治安がよろしくないようで、麻薬などの犯罪が横行しているとのこと。もし何もないのであれば、警官の要請に従い、数分入室して終わり、で良いと思われるのですがケネスは警官に対して高圧的に拒否をしていきます。

 この初動がまずかった。もちろんケネスが頑なに入室を拒否する理由もあります。どうやらケネスは過去に警察に無理やり入室をされたという経験をしているため、その苦い思いから絶対に入れたくはなかったのでしょう。確かに安易に扉を開いて、実は警察ではありませんでした、というケースもゼロではないため難しいところです。

 しかし、そのあたりはコミュニケーションをしっかり取れば解決できそうです。我々がこのやりとりを客観的に観ても、ケネスがもうちょっと警官を入れるのが嫌な理由や、自分の状況などを説明できていたら誤解を招かなかったかもしれないと思えてしまいます。案の定、警官たちはケネスの行為を怪しく思い始め、強行的に彼の部屋に入ろうとしていきます。

 一言で言うと意地の張り合いです。無論、警官たちも苛立ちを募らせてからは行動がエスカレートしはじめて、ある者は差別発言をしてしまうわけですからこれは許されるものではないでしょう。途中でやりすぎだと感じる新人警官が異議を唱えるのですが、全く相手にされません。ケネスの姪がきていて話をする、会社が電話伝えで確認依頼削除を申し出ているのに警官たちはそれらを聞き入れようとせず、事態は最悪の事態を迎えます。

 なんでこんなことになってしまったのか。本当に数分で終わる作業のはずが、とんでもない事態に発展してしまった典型的な例です。タイトルからもうネタバレされているので伏せませんが、ケネスは死ぬことを回避するチャンスはいくらでもありました。ただ、あまりにも警官たちの後半の行動が意地で動いているだけにしか見えなかったので、ケネスが一概に悪いとも言えません。

 結局のところ、警官側は全く処分されていないそうでケネスも悼まれないのですが、コミュニケーションの拒絶は時には最悪の事態を生むということを本事件は証明してくれました。この映画で本事件を多くの人が知り、再発しないことを望む限りです。
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