すし酢高跳び

キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのすし酢高跳びのレビュー・感想・評価

4.4
憤り、これに尽きる。

実話で、その再現度が非常に高い作品の為、最後はもう悔し泣きが止まらなかった。

2011年、無実の黒人が集合住宅の自分の部屋で、白人警官に殺害された事件に基づいており、2020年に『息ができない』と言って亡くなったジョージフロイドさんより遥か前の事件。

また、劇中チェンバレンさんが『オバマ大統領』と言うシーンがあるのだが、これはオバマが有色人種初のアメリカ大統領となって2年後の事によるものです。

題名通り、ケネス・チェンバレンさんが殺されてしまうまでの状況がそのまま映像化されたと言っても過言ではなく、実際の事件でも警察官が到着してから90分後に亡くなっている。

この作品の上映時間は、83分。
リアルタイムで事件を体感出来ます。

元海兵隊員のチェンバレンは、心臓が悪く精神疾患もある。その為、ライフガード社のみまもり医療用装置を普段から付けて寝ている。

その日はたまたま誤作動を起こしてしまい、様子を見に行くように警察へ通報が行ってしまう。

警官を見て安心する人もいれば、恐怖のどん底に突き落とされる人もいる。

正にその通りの事が起きる。なんて理不尽。

あらゆる無知と理解しようとしない、偏見の塊。

実はこれ、黒人に対する差別のみならず、精神疾患を持つ障がい者への差別についても描いた作品だったのです。

警官たちがチェンバレンさんの自宅のドア前に到着してからは、坂を転がり落ちるように悪い方へ進んでいきます。

私はふと、先日鑑賞した『福田村事件』を思い出しました。
あれは、同じアジア人でもあんな酷い事をする訳ですが、人種が違うなら尚更だろうなぁ。

ただ、唯一新人警官ロッシが常識的な判断と、元中学校教師という経歴からまともな人間性を持って、チェンバレンさん側に立つのですが、まるで引っ込んでろと言われてしまいます。
ロッシが後半見せる悔し涙に、思わず共感してもらい泣きです。

しかし、ジャクソンという差別主義発言をする野郎がいたのですが、あいつがニガーとか言いやがって、私はそれはそれはムカつきました。同じ警官の中でも黒人にルーツのある人が、そこに食いつく場面もあります。当たり前だわ、あいつ、アタオカだな。プンスカ!

全てが終わった時、長い暗転。

実際の音声が流れます。

私は、ただただ悔しくて涙が溢れました。

ジュニアと呼ばれた息子さんが話すシーンもありますが、葬儀の場で「胸に2発の弾丸跡が残った父の遺体を目にし、一体何が起きてしまったのが理解できなかった」と涙ながらに語ったそうです。

モーガンフリーマンが制作総指揮という、この作品。警察は裁判官、陪審員、死刑執行人ではないのに、現実ではそうなってしまっている、とアメリカの現実に警鐘を鳴らしています。
見応えたっぷり、差別問題に真っ向から挑んでいる秀作でした。
すし酢高跳び

すし酢高跳び