Asino

Benediction(原題)のAsinoのレビュー・感想・評価

Benediction(原題)(2021年製作の映画)
3.9
すごく見たかった作品なんだけど公開される気配はなく、訳あってDVDをお借りして鑑賞。

第一次世界大戦従軍をきっかけに反戦詩人として有名になったジークフリート・サスーンの伝記映画。若い頃をジャック・ロウデンが、WWII以降をピーター・カパルディが演じている。
比率としては9割ジャクロなんだけれども、わりと行ったりきたりするのといつの時代の話か説明がないので、あとからwiki読んでいろいろ確認するなどしました。

カメラワークの切り替わりのタイミングとかがちょっと変わった映画という印象。
戦場の記録映像(悲惨な状態の負傷者やご遺体とかもめちゃめちゃ映る)にジャクロの声でサスーンの作品がかぶる、真摯に反戦映画なパートと、戦間期のイギリスの文学界のクィアコミュニティの有り様というか、サスーンが付き合ったり別れたりする男性たちとそこからの逃避のような結婚の顛末、というメロドラマパートが半々くらい。結構ギャップが激しい。

サスーンは戦功により勲章をもらったりもしているのだけど前線にいるシーンはなく(そこはアーカイブで代用的な)、多大な犠牲を出し続けている政府を批判した文書を公開して軍法会議も辞さない姿勢だったにもかかわらず、結局は「精神的な治療が必要」という判断が下されてスコットランドの病院に送られる。資産家の家に生まれて入隊前は仕事も持たず詩を書いてた身分の人なので当然将校なのだが、そこでの他の入院患者たち(シェルショックとかで泣き叫んだりする)の描写や、やはり詩人のウィルフレッド・オーエンと出会いや医師との「対話」のシーンがかなり長い。
この医師がベン・ダニエルズで(!)、すごいよかった。
医師と詩人の哲学的な(あるいは隠喩に満ちた?)会話で難しく、私が英語字幕で正しく理解できてるのか?と言われるとかなり微妙なんだけども。

戦争が終わったあとのいろんな男性との恋愛のパートは正直そんなに興味が持てなかった。タンゴとか踊っちゃうジャクロは可愛かったですが。
ジェレミー・アーヴァインとのラブシーンがあったりするが、一番大事な人は彼ではなく。まあラブロマンスではないのでいろいろと苦い。

後年、ピーター・カパルディになってからのサスーンが成人した息子に非難されながらもカソリックの洗礼を受けるくだりもわりと冒頭に出てくるのですが、そのあたりの理由は彼の研究者にとっても議論になっている点らしいから、もちろん映画でわかりやすい答えなど示されない。
彼が晩年に至るまで、塹壕での悲惨な体験と大切な人の死に対する悲しみと強い怒り、をずっと抱えたまま過ごしたのだということは根底にあっても、同時にいろんな人と浮名を流したのも矛盾するようでしない一人の人生なので、伝記映画って難しいな、と思うなどしました。

読んでおいてから見るほうがわかりやすいかもと思った↓
https://en.wikipedia.org/wiki/Siegfried_Sassoon
Asino

Asino