Hiroki

サイボーグでも大丈夫のHirokiのレビュー・感想・評価

サイボーグでも大丈夫(2006年製作の映画)
4.2
2022年も無事にカンヌが開幕。
現地入りしている方々のSNSを見ると、カンヌ行きの列車が大幅に遅延したり、予約システムに全くログイン出来なかったりと大変みたいですが…
しかしあのレッドカーペットを見るとやはり心が躍ります!

という事で引き続き2022カンヌコンペ監督予習を。
④は韓国86世代の先駆者パク・チャヌク。
2000年に『JSA』が大ヒットしたパク・チャヌクはポン・ジュノやホ・ジノなど86世代(80年代の民主化運動に関わった60年代生まれの人々)の中でも先頭に立って韓国映画を引っ張る存在へとなっていく。
そんな中での今作品は、カンヌではなく2007年のベルリンのコンペ作品でアルフレッドバウアー賞(銀熊賞の一部門で新たな視点をもたらした作品に贈られる。現在は廃止。)を受賞。

今作の前まで『オールドボーイ』を含む“復讐”トリロジーという大ヒットを飛ばしたパク・チャヌクが、ここから“人間ではないもの”トリロジーという新しい世界の扉を開きます。
韓国国内で急激に今作の興収が落ちたのはおそらくみんなが望んでいたパク・チャヌク作品とはかけ離れていたから。
たしかに復讐トリロジーの後にこれ見せられたら頭に疑問符が浮かぶだろうなー。

ただ内容的にはけっこうシンプルで“ご飯を食べない若い女性を好きになった男性がどーにかご飯を食べさせようとする”お話です。
基本が精神病棟での物語で自分はサイボーグだと思い込む(変身妄想やコタール症候群?)主人公ヨングン(イム・スジュン)と盗癖症のイルスン(チョン・ジフン)をはじめ、心を病んだ人々がたくさん出てくる。さらにこのヨングンの妄想の世界をビジュアル化して描いているため、かなりぶっ飛んだ映像になっています。
ここらへんの作り方で離脱してしまう人が多いのかな。
しかしこの序盤から中盤をくぐり抜けるととてつもない愛の物語が広がっています。

サイボーグだからご飯を食べないヨングンはあと数日何も食べないと死んでしまうと告げられる。
そこでイルスンは「ご飯をロボを動かすエネルギーに変える変換器を作ったからそれを君に埋め込んであげる!」と提案。
それでもご飯を食べる事を躊躇するヨングン。
理由は「もしこの先変換器が壊れて作動しなくなったら困るから...」
その時のイルスンの言葉が「その時は出張修理しますよ。一生。」
こんな愛の言葉があるのか。
もー号泣してしまいました。

とにかくこの物語に出てくる人たちはみんなが優しさに溢れている。
心に病があって他の人々とは違うのかもしれないけど、でもみんなが自分なりの想いやりと親切心を持って生きている。
他に何が必要なんだろう?
ってこの映画を観ているといつも思う。
私たちが日頃、自分とは大多数の人とは違うからと切り捨てている存在は本当にそんな事をされるような存在なのだろうか。
今の日本とか地球という環境において適応できていないとされているだけの事なのではないだろうかと。考える。

凄く好きなシーン。
序盤。ヨングンはサイボーグなので自動販売機とお喋りをしていてお茶が出てくるように自販機にお願いする。
お金を入れていないのでもちろん自販機は作動しない。
それを見ていたイルスンが何も言わずに後ろからお金を入れてお茶のボタンを押す。
出てきたお茶を何も言わずに受け取って帰るヨングン。

優しさとは?思いやりとは?愛とは?生きるとは?
サイボーグでも大丈夫!

今回のコンペ作品『Decision to Leave』は中国出身のタン・ウェイ主演のロマンティック・スリラー。
山で起きた不審死事件を追う刑事と彼を魅了する未亡人が...めちゃくちゃシンプルなプロット。
でもそんな時こそ力を発揮するのがパク・チャヌク!
今年はホン・サンスもポン・ジュノもいないので韓国代表としてどこまで主要賞に絡めるか注目です。

2022-45
Hiroki

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