毛玉

サイボーグでも大丈夫の毛玉のレビュー・感想・評価

サイボーグでも大丈夫(2006年製作の映画)
4.3
鬼才パクチャヌクが描く、シュールでキュートなラブコメディ。
自分をサイボーグだと信じる女性とあらゆるものを他人から盗む社会不適合者が、風変わりな精神科病棟を舞台に繋がっていく様子がとても可愛らしくて、とにかく優しい。
画作りや美術、編集によるストーリーテリングは安心安全の本作ですが、復讐3部作よりもシュールな内容に拒否反応を示す人もいるかもしれません。それでも、他のパクチャヌク作品にもうっすら存在し続けてきた「明るい狂気」「ナンジャソレ的展開」をポップに詰め合わせたような作品に仕上がっているので、見やすさはダントツです。


僕はパクチャヌクに絶対の信頼を置いているファンなので、本作も楽しかったです。ですが、復讐3部作などの他のパクチャヌク作品のような、バイオレンスやツイストの効いたプロットなどの要素を期待されている人には拍子抜けでしょう。
本作のテイストは、どちらかというと「ラブコメ的世にも奇妙な物語」といった感じです。パクチャヌクの今までの作品にもあったクスッと笑ってしまうようなユーモアや、ビジュアルのキュートさが割り増しで入っています。そのルックに、パクチャヌク的なツイストを効かせた「サイボーグ女と社会不適合者の精神病等ラブ」という設定がぶち込まれているのです。そりゃ拒否反応を示す人もいますよね…。

本作の良さは、圧倒的な優しさです。登場人物が全員優しくて、ほどよく人間くさいのです。
精神科病棟を舞台に、少しネジが外れたとみなされてしまうような人たちが登場する映画は多くあります。そのような映画に共通するのが、人が優しくて人間くさいという要素です。人間誰しも持っている狂気や変わったポイントを煮詰めたような人間が、精神科病棟にはいるのです。変わってるけど可愛らしい、そんな人たちが描かれることが多いです。
パクチャヌクによって統制された世界の中で、そういう人たちに溢れたキュートなやりとりが展開される本作。主演2人のラブストーリーは、2人の仲が進展して終わるのではなく、2人が心身共に健康になって繋がるまでを描きます。その過程がとっても変わっていながらも人間くさくて、ナンジャソリャと思いつつもキュートなのです。特に社会不適合の男の子はずっとキュート。応援したくなります。

主人公は自分をサイボーグだと信じている女の子なので、頭の中では自分がサイボーグになっていろんなことをしています。その描写で、みんなが期待するパクチャヌク的な映像が見られます。
白と淡い青で統一された病棟で働く白い服の医者たちを、指先から炸裂するマシンガンで撃ち殺していくバイオレンスシーンや、遠い建物の上に避難する医者を狙撃する殺戮マシーンと化した主人公を、パクチャヌク〜な画角で映すかっこいいショットなどなど。
僕も他に漏れず復讐3部作からパクチャヌクにのめり込んだ1人なので、この殺戮サイボーグシークエンスには涎を垂らしていました。楽しかったです。

パクチャヌクの編集や画作りへのこだわり、設定の変な部分やストーリーテリングの変態さ、そしてバイオレンス描写。変な形をしたお盆に乗ったパクチャヌク特製小皿を楽しんでいるような感覚でした。
変な映画だなと思いつつ、心はあったかくなってしまう感じ。本作でも僕は、見事にパクチャヌクの手のひらの上でした。
パクチャヌクや彼の他作品という色眼鏡を捨てて、シンプルに作品単体として楽しんで欲しいです。きっと主人公2人や、世界観が可愛らしくて仕方なくなります。
大好きな映画でした!
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