茶一郎

サイボーグでも大丈夫の茶一郎のレビュー・感想・評価

サイボーグでも大丈夫(2006年製作の映画)
3.9
 パク・チャヌク監督はストーリーテリングの変態だ。しかもこの変態性は考え抜いた結果、御本人が「真面目」すぎるが故の「変態」なので、普通の変態より幾分かタチが悪いと思う。
 
 いかにもダニー・エルフマン然とした劇伴と、ゴテゴテのCGアニメーションとが組み合わされ、「あれ?『チャーリーとチョコレート工場』?」なんて思わせるOPから、本編は『チャリチョコ』のチョコレートより「食べるな!危険!」な怪しい世界。まさに「ティム・バートンとデヴィット・リンチを4:1で混ぜました」みたいな悪夢的世界である。
 そんな今作『サイボーグでも大丈夫』は、自分のことを「サイボーグ」だと思い込んでしまったヒロインの恋愛を描いた「精神疾患ラブコメ」。
 やはり、「ラブコメを描く」と言っても普通のラブコメにならないパク・チャヌク、『復讐者に憐れみを』にて、アニメ『ぼのぼの』と「自殺」を重ねる変態すぎるシーンがあったが、その変態すぎるストーリーテリングが107分に引き延ばされたかのようだ。

 パステルカラーに彩られ、シンメトリーで無機質な構図が続く全編。誰が見ても納得するこの美術の凄さ、そしてこの幻想的な空間自体が精神病患者である登場人物たちが見る悪夢の世界を表していた。
 一つ一つ人間性を失っていくヒロイン、その彼女をもう一度、人間に戻そうとする男。とても奇妙なことにストーリーの最終目的は、「ヒロインに食事をさせること」、「ヒロインをもう一度、人間に戻すこと」になる。

 世間的に見てみたら「普通」の道を外れてしまった「人間ではない存在」同士が愛を育む美しさ。これは監督の次作『渇き』に繋がる、余りにも純粋な恋愛の物語。
 「人間ではない存在」を優しく包み込み、彼らを肯定した上で、愛で結ばれた二人は「死の淵」に向かう。まるで核爆弾で破壊されたような荒廃した世界で、「人間ではない存在」たちが最も「ニンゲンらしい」愛を語るラストに不思議と感動するのでした。
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