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この世の外へ クラブ進駐軍のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

5.0
【壊れた世界だから前に行くしかできない】
同じ年に『スウィングガールズ』が公開されてしまった為、キネマ旬報ベスト・テンにはランクインできず(『世界の中心で、愛を叫ぶ』と同点26位)、今となっては忘れられた邦画になっている『この世の外へ クラブ進駐軍』。東京フィルメックスの阪本順治特集で上映されたので観てみました。

阪本順治監督とは相性が悪く、『KT』、『団地』が少々良かったなと思う程度なのだが、これは大傑作だった。

アジア・太平洋戦争が終わった。ドラムと和太鼓の区別すらつかない池島は、米軍基地でバンドをする。そこで出会った、楽器屋の息子にしてサックス奏者・広岡健太郎、ピアニストの大野、カントリーバンドのトランペット奏者・浅川とタッグを組み、ラッキーストライカーズを結成する。戦後の喧騒・混乱の中、音楽で夢を掴もうとする者たちの生き様が描かれる。

本作は、戦争は終わったが、過去を引きずっている男たちが如何にして夢を見ることで前に進めるのかを緻密に描いた作品だ。前半、彼らは基地で禁止されている"DANNY BOY"を演奏する。その曲は、クラブマネージャー(なんと、ピーター・マランが演じている)が失くした息子を思い出させる曲だ。当然ながら彼は泣き出してしまい、ショーは中止となる。そこに立っているのは、戦争で日本人に対して憎しみを抱くラッセル(『ジョーカー』で刑事を演じていたシェー・ウィガム)だ。

ラッキーストライカーズのメンバーは皆、面倒臭い。PTSDに罹り、ドラッグに溺れる者、しょっちゅう騒動を起こす者もいる。町からアカだ!とレッテルを押されたり、弟が失踪して探しても探しても発見できずにいたりする。

しかし、そういう時こそ音楽だ。音楽を楽しむ、ショービジネスとして会場を盛り上げる。前に進むことで、過去を成仏することができるのだ。癖ある人物たちが、各々のやり方で過去を乗り越えて行く、それが複雑に絡み合って出来上がるジャズセッション、感傷的な音楽はハンカチなくして観ることができないほどに胸が締め付けられた。

輝ける青春者としてサイコーの一本でした。
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