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星の消えた空にのhasisiのレビュー・感想・評価

星の消えた空に(2021年製作の映画)
3.2
「深呼吸して。大丈夫だから」

米国ニューヨーク州マンハッタン。
金持ちが暮らす高級アパートメント。
ジュリーは自分でイラストも描く児童書の作家として、ベストセラーの常連。優しくてハンサムな夫と、1歳に満たない可愛い赤ちゃんと3人暮らし。
人々が憧れる彼女は、一見すると幸せそのものなのだが。
明るい作風と裏腹に、心に深い闇を抱えていて。ある事件を切っ掛けに、精神科に通院するようになる。それから時々、子供の頃のトラウマが頭をよぎるようになった。

監督・脚本・製作は、作家のエイミー・コッペルマン。彼女の監督デビュー作。
原作は、彼女が書いた同名小説。
2021年公開。2人の子供を持つ監督の、育児経験を基にしたドラマ映画です。

【主な登場人物】
デイビィス家。
[イーサン]夫。
[ジュリー]主人公。
[ボビー]母。
[テディ]男の子。
[レイチェル]女の子。
その他の人達。
[シルヴェスター]精神科医。
[ヘクター]アパートの管理人。
[ルーシー]友達。
[ロン]父。

【感想】
監督が出産したのが1995年。本が出版されたのが2003年。まだ、育児ノイローゼが世間一般に広く認知されていない頃の話し。
抗うつ薬への偏見も強い。本の出版にも苦労しているし、現在でも監督のwikiが存在していないなど、ジュリーのような売れっ子ではない。
夫は脚本家のブライアン・コッペルマン。

「ピンキーの小指の鍵で扉を開くと、虹がかかり、動物は躍動し、花は咲き乱れる」🌈

ぼんやりして、あたたかな話し。彼女が抱える心の問題のわりに、明るい映像の中で穏やかな空気が流れる。
会話も静かで、口論やヒスもない。

あまり育児ノイローゼに注目した話しではなく、かと言って、トラウマに触れることに重きが置かれているわけでもない。それとて、昼間の日差し中の記憶として映像化されている。

抗うつ薬を服用している人から見た世界も少し。

仕事をつづけながら、育児をする大変さ。
自己嫌悪におちいらぬよう、ひとりで我慢せずに、医師に相談する大切さを伝えるためのもの。

育児のありのままが描かれている。いらいらするし。夫に気を使っている余裕がないし。ストレスを発散したくて話しに夢中になるし。子供を預けて遊びにも行きたい。
時々、優しい夫が本心で喋ってくれるのもいい。ガス抜きになるし、作品が引き締まる。

劇的なイベントが起こらない分、育児と日常が感じられる作りになっている。

この作品が、ぼんやりしている理由の一つは、他人を信じられなくて、建前を優先。中々本心を出せない内側に閉じこもる面と、お喋りという、相反する面が共存しているせいで。
一見すると、沢山喋ってくれて、大丈夫そうなんだけど、ある日突然、のように。
不安障害ともつながる。

実は本当の気持ちは全然喋れていなかった、のような複雑な内面が、上手く表現されている。

「子供の頃、一緒に怪物と戦ってくれて、秘密を話せる親友が欲しかった。長い間探したけど、どこにも見つからなかった。……だからわたしは自分で描いた。いまでも英雄はそばにいる」🍀
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