ネノメタル

茶飲友達のネノメタルのネタバレレビュー・内容・結末

茶飲友達(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

「家族」と「ファミリー」の狭間で

1."茶飲友達"が"ティーフレンズ"に変わる時
「茶飲友達」という牧歌的ってか素朴な言葉で老人達を惹きつけておいて実際やってる事は「ティーフレンズ」という売春斡旋クラブ。
それは例えば、「未成年売春」を古くは「援助交際」最近では「パパ活」だの「p活」だの当たり障りのいい言葉にひっくるめる世の中の風潮と重なってくる。
そんなこんなで正直私はこの売春斡旋クラブtea friends連中のやり口に腹たって腹立って仕方なかったのだ。しかも主人公はじめとして愛だの希望だの妙に人の心の隙間につけ込むような言葉を巧みに使って、妙に老女を車で送るときに刑事が見張りをするかのようなパンかなんかかっくらいやがってカッコつけやがってみたいな、とにかく若者連中のこなれた手口に腹立って仕方なかったのだ。そして、そんな序盤から中盤あたりまで観ててかなり危惧していたのは、最近『万引き家族』『ひとくず』『泥の子と狭い家の物語』などで描かれた「血の繋がりだけが家族じゃない」という結末に向かうムーブメントに乗っかった作品が急激に増えているように思えるんだけど、そうしたムーブメントより更に上乗せってか気を衒ったアバンギャルド志向のインパクト勝負の作風なんじゃないだろうかと思ったりしたからである。若造における老女売春で成立した組織を家族として肯定されたらたまったモンじゃないよ、と多少ネガティブ目に観ていたのだ。これが序盤から中盤にかけての私の偽りなき感想である。

2. ”ファミリー”とは"家族"なのか?
だが、そうはならなかった。
彼らtea friendsの人たちも、母親との関係が完全に決裂していたり、実家のパン屋が廃業してたり、不倫関係にある男との間で子供を妊娠してたり、徐々に彼らが各々抱えるシリアスな状況が徐々に明るみになってくるのだ。正に本作で触れているように「自分の寂しさを他人の孤独で埋め合わせる」為にこのような斡旋業に勤しんでいたのだ。
要するにこれは現実逃避だと思う。
で、その辺りから俄然面白くなっていってどう展開していくのかスリリングな心持ちでもはや前のめりで観るようになった。
そして、暴論承知でいうが、彼らtea friendsのメンバーは「寂しい老人たちの心を満たす」とか、「私たちはファミリー」だとか愛だとか希望だとかそういう前提ってかコンセプトだとかは半ばどうでも良かったんだと思う。何となくtea friendsというコミュニティを作り上げてその中でワイワイやっていく中で自己アイデンティティを爆発させる手段を見出したかったのだ。その反面、このコミュニティーは永遠に続かずいつかは崩壊することを頭に掠めながら現実逃避としてのエセ・ビジネスに興じていたのだろう。じゃないと情事前に老人が自殺するなどというあんな呆気ない幕切れの仕方など誰もが予測できたではないか?誰もがどこかで崩壊を望んでたんだと思ったりもしている。
やがてその自殺事件をきっかけにこのコミュニティは予想通り音を立てて崩壊する。まあどいつもティーフレンズのメンバーも娼婦たちも誰もがこいつも責任を相手に被せて逃げまくること逃げまくること。
「皆でこの子を育てよう、私達ファミリーなんだから」かなんか言われてホッとしてた妊娠中した女性など金を鷲掴みにして逃げ出す始末。
正直、私はこの光景を見てちょっとほっとした。もっと言えば少しのカタルシスすらあったぐらいだった。
ここ数年「血の繋がりだけが家族じゃない」と言う趣旨の作品が乱立してる事は先に述べた通りだけど、私はそういうムーブメントにややウンザリしてて、本作は意図的なものかは分からないけどそれらへのアンチテーゼとしてしっかりと機能してたからである。いや、別に「血のつながりだけは家族だ」とは思っている訳ではなくて、先に述べた「血の繋がりだけが家族じゃない」というテーマに乗っかってた『ひとくず』などが本当に素晴らしいんだけれど結局あの作品だって家族としては成立しなかった訳だし。
結局は血の繋がりとは絶対的な何かがあるのだと思う。そもそも彼らは老女含めて「私たちファミリーよ」というがその【ファミリー】とはあくまでカタカナの【ファミリー】であって結局は本来の意味での【家族】ではないだ。
もっと掘り起こすと「茶飲友達」だって実際は友達でも何でもなくて「ティー・フレンズ」もっと言えば「セフレ」ってことだから。
それにしてもここまでズッシリとした重みを受け取った作品は久しぶりで見応えは十分だった。作風は違うかもしれないが『由宇子の天秤』以来かもというかあの作品が好きな人はハマると思う。あれだって最後は様々な人間ドラマが繰り広げられつつも、最終的には、「で、あなたはどうお考えですか?」と銃口(カメラ)を突き付けられたような結末があるからである。

本当作品のトーンってか全体の雰囲気めいたものだとか、それと同じような印象を受けるのだ。

しかし「玉露」って普通に言ってたのに今後使う時躊躇いそうな私がいる(笑)🍵
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