いのしん

茶飲友達のいのしんのレビュー・感想・評価

茶飲友達(2022年製作の映画)
3.2
社会の闇だなーという印象。孤独死していく老人とか、自殺しようとする人とか、親の介護に疲れて老人ホームに入れちゃうとか、パチンコ依存とか。
高齢者向けの売春斡旋サービス、実話ベースとはいえ、なかなか良いところに目をつけたなと思う。誰もやってない、けど需要があるニッチなビジネスだと思う。マナ(岡本玲)は、そこであくまでもファミリーを作ることを目的にやっているのだが、儲けることに全力を注いだら化けるだろうな。メンバーの面倒を見る感じも含めてキャリアウーマン的な雰囲気が出ていた。そして芯が強い。「正しいことだけが幸せじゃない」とポリシーを持ち、風俗で働いていたことにもプライドを持っている。自分の体を傷つけるような生き方を母親に否定されるも、ちゃんと自分の意見を言える彼女はすごい。風俗って世の中的に評価されない立ち位置にいるけど、そこで働く女の子たちを本当に尊敬する。そんな「できる女」であるマナも実は家族との関係に闇を抱えているというね。
マナが人をまとめていく感じ、勧誘していく感じがもはや宗教じみてる。洗脳しているみたい。
万引きして自殺未遂までいった松子(磯西真喜)が、マナと出会い助けられ、人生を変える。マナ自身も松子と出会い、ずっと会えなかった母親に勇気を持って会いにいく、その背中を押してもらう。お互いに影響しあって人生を変えていく。会員数も目標の1000人を突破して、良い方向に流れる。パン屋の経営を父から学ぼうとしてみるメンバーもいたり、妊娠したが相手に逃げられ、それでも産みたいと強く願いシングルマザーとして生きていくことを決意するメンバーもいたり、周りの人間がどんどん人生を変えていく、そんなハッピーエンドで終わるのかと思ったが、やはりそんな簡単には行かなかった。
松子が仕事中に客の自殺現場から逃げ、警察沙汰に。それに伴いティーフレンドは摘発され解散に。マナが目指していたファミリーは、違法行為が公になるという突然のきっかけにより、いとも簡単に崩れてしまう。やはり人と人とのつながりなんてそんなものなのだ。強い契約がないと結びつくことはできない。まるでライアーゲームで表現されそうなシーンである。それでもマナは「逃げたい人は逃げればいい」と割り切り、ファミリーの維持をとるのではなく、松子と一緒に自首しに行こうとすることを選択する。なぜ仲間を取らず松子を取ったのか。それは自分の人生を変えるきっかけを作ってくれた恩人だからなのではないかと思う。しかし、そんな松子からも見放されてしまう。自分の母親よりも母親みたいに仲良くしていた人に裏切られるマナの哀れさ。血のつながった家族であろうとなかろうと、所詮他人は他人。人との繋がりの難しさを痛感するシーンだ。
冒頭、渡辺哲が演じる、妻に先立たれた老人男性が一人寂しく老後を過ごすシーンが続く。結婚しないならもちろん、結婚しても寂しい人生を過ごすことになるのかな、と自分自身の将来に不安を感じる。劇中でも描写されていたように、子供がいても会いにきてくれないかもしれないし。若いうちにパートナーを見つけることも大切だが、死ぬまで所属できるコミュニティがあれば安心だろうな。ティーフレンドはそんな人たちが安心できる心の拠り所であり、最後の希望となっていたに違いない。そして出会いと別れを対比させるように、結末、ティーフレンドに電話しようとした彼が、「電話番号は使われていません」の自動アナウンスで一時の物語が終わる様子を描く。はかない。でも、こういう風俗って突然運営を終わらせるから、あるあるだなと共感できる。
この一件、法律というルールは侵しているけど、高齢者から見たら余生を充実させるコミュニティになっていたのではないか。少なくとも自分が高齢者になったら、ティーフレンドのファミリーになりたい。佐々木マナが主張する「正しいことだけが幸せじゃない」はまさにその通りである。
吉田茂樹先生が一瞬だけど出演シーンを観られて良かった。老人ホームで、若い頃は偉い人だったけどそのプライドが残って施設でも浮いている年配男性役とのこと。
岡本玲が可愛い。
上映後のトークショーにも偶然参加できて良かった。口コミで65館まで上映劇場が広がったらしい。低予算で、撮影した拠点となる家も出演者のシェアハウスなのだとか。カメラがぶれている感じも、あえて手撮りなのではなくて、単純に予算がなかったのかなと思ってしまった。