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猫は逃げたのTaiRaのレビュー・感想・評価

猫は逃げた(2021年製作の映画)
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城定脚本が今泉映画に寄せに行きつつジャンル性も高めてるから不思議なバランス。

何が凄いって山本奈衣瑠。どこの誰だか分かんないで観たんだが、もうとにかく動物的な凄味を持った役者で、彼女の発見という点だけでも意義がある映画かと。初めて安藤サクラ観たときの恐さに近い。怒ってる時の眼差しとか、泣き方のあり得ないくらいの自然さとか、表面化する部分はもちろん、何も表情には出さない時の感情表現とかがめちゃくちゃ生々しくて驚く。「そこにいる人」にしか見えない。毎熊克哉も手島実優も井之脇海も芸達者なので、その中心にいる山本奈衣瑠、そして猫のオセロというカオティックな名優が映える布陣。オセロという名優に堂々たる芝居をさせたという点で猫映画としてのポイントも非常に高い。彼が優雅に道を闊歩する様から、猫同士の会話劇など、これらを撮らなければならなかった現場の苦労を想像すると愛おしさは増す。オセロの地声かどうかは知らないが、変な声の猫というキャラ付けをちゃんと活かした場面が用意されているのも良い。ちゃんと観客にも彼の声がインプットされている演出の周到さも。ぶっきらぼうな回想によるストーリーテリングも誘拐劇になだれ込む展開も、筋がふわっとし過ぎない為の重しになってる。骨組みだけ用意して後は生モノって感じの本。セックス・コメディというより、セックスが介入する夫婦悲喜劇。濡れ場はエロさよりリアリティに振った感じで個人的には好き。セックスよりセックス前後のみっともねえ男女のだらしなさを愛でたい。
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