回想シーンでご飯3杯いける

猫は逃げたの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

猫は逃げた(2021年製作の映画)
4.0
石田純一のひと言から生まれた見出し「不倫は文化」(本人はそう言っていないらしいが)は、映画文化の観点で言えば必ずしも間違いではないと思う。不倫は男女関係を描く上で、監督や脚本家の力量が表れる題材。映画だけではなく、例えば音楽でも不倫を題材にした名曲は少なくない。

今泉力哉監督、城定秀夫脚本による本作「猫は逃げた」の良い所は、作品内で扱う不倫の形を、ステレオタイプではなく脚本の中でしっかり構築している事。基本的に女性が被害者として配置されておらず、雑誌編集部で働く独身の真実子は、行動力と発想に富むやり手の女性として描かれる。妻帯者である広重に依存しているわけでもなく、何なら鮮やかに他の男に乗り換えそうな雰囲気さえ漂わせる。対する広重の妻で漫画家の亜子も、夫との関係に於いて負けた側に立ちたくない気持ちから、身近な男と関係を持っているに過ぎず、特に切羽詰まっている感じはしない。

女性漫画家の不倫を題材にしている点は「先生、私の隣に座っていただけませんか?」と同じだが、あちらが、あくまで多くの日本人が持っているであろう「不倫ダメ、絶対!」の価値観をベースにした作品であったのに対し、この「猫は逃げた」は観客に共感を求めず、独自世界を構築している点が面白みになっている。

離婚に付き物の親権問題に至っては、本作では人間の子供ではなく、猫を巡って繰り広げられる。この仕掛けにより、同種の作品ではあり得ないニュートラルな世界観と、自由に笑って良い雰囲気を作り出しているのだ。お見事としか言いようがない。