シズヲ

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーのシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
それまであまり目立っていなかった「マリオブラザーズはNYのブルックリン在住のブルーカラーである」というパーソナリティが冒頭から明確に描かれているのが印象的。作中で出てくるマリオ達の親族も“イタリア系移民の大家族”といった趣なので、馴染み深いキャラクターの出自が伺えて何だか新鮮味がある。どうやら実写版(デニス・ホッパーとかが出てくるやつ)も概ねその設定で描かれているらしいので、マリオは昔から一貫して“イタリア系アメリカ人の労働者”というルーツであることが伝わってくる。作劇的には特にキーとなる要素ではないけれど、マリオとルイージという人物の解像度をさりげなく上げている。思えば『サタデー・ナイト・フィーバー』などでも労働者や移民の町としてのブルックリンが描かれていたのだなあ。

そして「ブルックリンの配管工には見ず知らずの姫を救う理由は特にないけど、弟なら救う理由がある」というよくよく考えたら尤もな再構築がされているので、ピーチ姫がスムーズに相棒兼ナビゲーター枠へとスライド。姫が単なる拐われ役を脱した結果として「キノコ王国の国家元首はたぶんピーチ姫なのだから、他国との戦争になったら矢面に立つのは彼女である」という解釈へと着地しているのが面白い。ピーチ姫は逞しく描かれつつ“勝ち気で御転婆なヒロイン”としてのキャラクター性が打ち出されているので、原作の淑やかさとはまた違った魅力に溢れている(原作も原作で逞しいんだけどね)。気丈な姫に対してキノピオはお調子者だったり可愛さアピールを繰り返すばかりなのがなんか好き。あと大魔王クッパはユーモラスで憎めない悪役として描かれつつも(ピアノ独唱すき)、それはそうと圧倒的な暴力を備えているのでちゃんと恐ろしい。

映画自体は紛うことなきテーマパーク的な娯楽作であり、とにかく賑やかなビジュアルやアクションに加えて数々の原作オマージュで観客を楽しませようとしてくれる。細かな説明や理屈は抜きにして、テンポ良くシーンを繋ぐことに努めている。冒頭のブルックリンでの2Dアクションめいた移動シーンなど、マリオのジャンプアクションを“ダイナミックなパルクール”的に解釈しているのが面白い。大胆な試みをしている訳でもなければ確かに批評家受けする作品でもないけれど、ゲーム原作のアニメーション映画として率直な魅力がある。思えばマリオ誕生の年代を意識してか、作中で80年代のサウンドが度々引用されていたのが何だか面白い。
シズヲ

シズヲ