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ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーのambiorixのレビュー・感想・評価

3.7
おとといの『食人族』に続き、またぞろカメが虐待される映画に出会ってしまった…。その映画の名は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』だ。
ポリコレ叩き棒、ディズニー叩き棒、ソニー叩き棒…などなど、日頃からむかついていた奴輩をこの映画でもってここぞとばかりにぶっ叩きまくる、とかいう世にもおぞましい光景が今まさに現出しておるわけだけど、その中でもっとも割を食ったのが映画評論家であることは衆目の一致するところでしょう。彼/彼女らが本作を少しでも貶そうものなら「あいつらは娯楽映画の面白さがわからないバカだ」「いけすかねえシネフィルだ」かなんか言って袋叩きにされる始末。ただ、俺も去年あたりからここFilmarksに長めのレビューを投稿するようになったのでよくわかるんだけれども、本作のような、作り手の側に何かしら伝えたいメッセージがあるわけでも鋭い社会批評性があるわけでもない、ただただ真っ当に面白い映画(褒めてます)にオリジナルの視点で切り込んでゆき、かつそれなりの文章量を用意しなくちゃあいけない、というのは実はかなり難しい。まして評論家の人たちはわれわれ一般人と違ってお金をもらって文章を書いている以上、面白かったつまらなかったキャラクターに感情移入できなかった退屈だった、みたいなフワッとした印象論で済ませてしまう、なんてなことは断じて許されないわけです。そういった事情も忖度してあげようよ、評論家にも評論家なりの苦しみがあるのよ…と言いたいところなのだが、その一方で、これはガキの見るものだから〜もともとマリオが嫌いだから〜かなんか言って評論そのものを放棄してしまった柳下毅一郎やライムスター宇多丸みたいなのはさすがに論外。
って、なんでこんなクソ長ったらしい前置きから始めるのかというと、思った以上に書くことがなかったから(爆)。けれども、面白いか面白くないかで言ったら間違いなく面白い部類に入る作品だし、とりわけ俺が唸らされてしまったのは「ゲームの映像化」に高いレベルで成功している点だった。というと、「なァに当たり前のことを抜かしてやがんだ、このかぼちゃ野郎がっ」なんといって啖呵を切ってくる江戸っ子がいるかもしれないが、これって本当にすごいことなんですよ。ゲームが原作の映画には名作がほとんどない、という周知の事実からもこのことは分かってもらえるはずですが、この手の映像化作品は、たとえば俺の生涯ワースト映画のひとつ『ファイナルファンタジー』のようにゲームの美点をすべてスポイルしたひたすらに退屈なだけのゴミクヅと化してしまったり(旧日本軍みたいな場当たり的なノリで登場人物がガンガン死んでいく😱)、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』のように本編の最後で知らん人が上から目線で説教をかましてきたり、それこそマリオ映画の黒歴史『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』の名前を挙げてもよいでしょう。よーするに、これらの映画の作り手たちは原作のゲームに何かしら映画的なものを付け加えようとしてことごとく失敗しておるわけです。それはたぶん、製作者がゲームというメディアを映画よりもかなり低く見積もっているか、折衝したゲームのクリエイターサイドが映画に対して極度の憧れやコンプレックスを持っているか、またはその両方に原因があるのでしょう。しかるに本作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はどうなのかというと、マリオというゲームの面白さや魅力をほとんどそのまま映画のスクリーンの上に刻印してみせた凄まじい完成度の作品に仕上がっています。とにかく作り手たちのマリオ愛がハンパではない。冒頭のブルックリンの街中における横スクロールのアクションや、キノピオのパチモンでごった返すキノコ王国を縦横無尽に駆け回るシーンの素晴らしさ。「この世界のマリオを実際にプレイしてみたい!」と思わしめた時点でもう満点をあげてもいいんじゃないかと思った。
ただし、その「ゲーム的な面白さ」っていうのは同時に欠点でもあったりする。中国の歴代興行収入ナンバーワン映画『1950 鋼の第7中隊』をクソミソに貶した時にも書きましたが、本作においても基本的には「キノコやスターなどのアイテムを取って窮地をひっくり返し暴力で敵を殲滅する」パターンをひたすらに反復するだけで、そこにはただただ相手をやっつけて得られるゲーム的な単純刺激以上のものは存在しない。「いやさ、娯楽アクション作品なんだからこういうのでいいんだよ」と言われたらぐうの音も出ないのだが、なんだろうな、俺なんかはやっぱり映画館で映画を見ているわけだから、映画的な快楽の方ももう少し欲しいと思っちゃうんだよな。そういう意味でいえば、原作のゲームに映画的なプラスアルファを付け加えようとした先人たちのチャレンジ精神も単にベクトルを間違えていただけの話で、あながち的外れというわけでもなかったのかもしれない。
もうひとつ指摘しておきたいのが、上映時間の驚異的な短さ。額面で94分とただでさえ短いわけですが、エンドクレジットが始まってから場内に灯りがともるまでの時間を測ってみたら9分あったので、本編の実質的なランタイムはなんと85分。フツーの映画でも引き延ばして引き延ばして2時間を超えてしまうことが当たり前になってしまった昨今、この短さはちょっと異常と言ってもよいのでは。なんやけど、これに関しても手放しには褒められない(笑)。なぜならストーリーの展開があまりにもタイトすぎるからで、この映画には緩急のメリハリというものが一切ないのね。こちらの事情もお構いなしに話がポンポンポンポン進むので、見ていて正直かなり疲れる。マリオとドンキーがウツボの体内から脱出するくだりをはじめ、全体的にもうちょっと膨らませようがあったんじゃないかと感じたし、あんまり展開が早いので途中からはRTAのプレイ動画を見てるんじゃあねえのかという気分になったものな…。しかしこれは単に俺の動体視力が衰えてついていけないだけの話で、YouTubeやTikTokのハイテンポな編集および動画コンテンツの倍速再生が当たり前になった人たちの目から見るとそこまで違和感を感じないのかもしれない。逆にそこから、もっぱら爺さんや婆さんで構成される評論家連中から本作が総スカンを喰らった理由の一端がほの見えてきそうな気がしますが、真相は果たして…。
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