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リコリス・ピザのtntnのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.3
トム・ウェイツがクラブの客を引き連れて夜の野原に繰り出すとバイクの曲芸スタントショーが始まる場面は、『ザ・マスター』のセルフオマージュすら突き抜けて、祝祭的高揚感に満ちている。
大人にならない子供達に盛大なデタラメをやらせるPTAは、自分がずっとずっと描いてきた本物を掴み取ることができない愚かしくも哀れなワナビー達を全力で肯定してみせる。
「大人」が唯一存在する市長の事務所が、暗闇の中でがらんとしている終盤のショット。
肥大化した自尊心を持て余した男性主人公達に、彼らが縋り付いてた虚構が木っ端微塵に砕ける様を目撃させるというホモソーシャルの暗部を抉る一連の作品群から、ここまで瑞々しくてどの登場人物にもフラットな視線を与える青春映画にたどり着いたのかと少し感動してしまった。
素晴らしく美しいHAIMのMVを見れば、それも納得。
お互いがお互いの恋愛にとって最大の障壁となる展開は、スクリューボールコメディ的でもあり、直接的な性行為よりも人の波をかき分けてまで相手と同じ方向を向いて歩きたいと望むことぐらいピュアな映画でもある。
山崎まどかさんのコラム読んで膝を打ったけど、確かに森田芳光の『の・ようなもの』に似ている!『の・ようなもの』の天気予想フィーバーのシーンが延々と続くような。20代でその名を轟かせた”天才”は、キャリア30年目にしてぴあに入選したばかりの青二才監督みたいな”若さ”を手に入れたのである。
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