おなべ

リコリス・ピザのおなべのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.7
◉70年代のLAのカルチャーと甘酸っぱい青春が「これでもか!」と画面いっぱいに塗りたくられた、恋情ほとばしるボーイ・ミーツ・ガール群像劇。

◉1970年代のハリウッド近郊サンフェルナンド・バレー。学校に行きながら(一応)俳優業もこなす高校生のゲイリーは、カメラアシスタントのアラナに恋心を抱き、声をかけた事をきっかけに2人は恋に落ちる。しかし、2人の心は徐々にすれ違い始め…。

◉第94回アカデミー賞にて[作品賞][監督賞][脚本賞]にノミネート。

◉タイトルである『リコリス・ピザ』は、サンフェルナンド・バレーにあった独立系レコード・ショップチェーン店が由来だとか。リコリス=黒(菓子)、ピザ=円盤を意味するらしい。

◉《フィリップ・シーモア・ホフマン》を父に持つ《クーパー・ホフマン》は《PTA》監督のラブレター(オファー)を受け、本作が演技初体験であり、いきなり主演に大抜擢。ちょっと暑苦しく絶妙に冴えないものの、純粋(?)で真っ直ぐな愛嬌のあるキャラを演じており、父親の若かりし姿はこんな感じだったのかなぁ…と想像を巡らせたり。

◉クセのあるヒロインを務めた《アラナ・ハイム》 は、LAのサンフェルナンド・バレー出身の三姉妹ロック・バンド〈HAIM〉に所属。グラミー賞では最優秀新人賞や最優秀アルバム賞などを受賞し、かの有名な歌姫《テイラー・スウィフト》も絶賛したとかしないとか。 《PTA》監督は、彼女らのプロモーション映像を撮ったりと何度もコラボしていたらしく、三女の《アラナ》を大抜擢。こちらも初主演作品となる。
※《アラナ》のリアル家族も出演。無心論者の件も、事実談に基づくものだそう。

◉監督は、20年ほど前、近所の中学校の卒業アルバムの撮影をしている時に、カメアシの女の子にちょっかいを出している年下の男の子の姿を見かけ、その時の印象が強く残っており、そこから本作の着想を得たという。

◉気を引こうと必死に格好つけてはいるものの、全く格好ついてないゲイリーが堪らない。作中、彼が見つめる先には常にアラナがいて、彼女もまた背伸びをしては大人の女性のフリをする。お互いに頑張ってマウントを取ろうとしながらも、大事な時はなりふり構わず、引き引かれ合う関係性が、グランドマザーのチェリーパイより甘酸っぱかった。ただ、一点だけ。これは映画通の知人も言ってたけど「女心と秋の空」とは言うものの、秋の空模様の移ろい 早すぎやしないか…とも思ったり。そんなものだと言われれば、そんなものか。

◉作中の至る所で散見される、少し過激味のあるユーモアが素直に面白かった。個人的に《PTA》監督は、毒々しさや狂気感が漂う作品の印象が強かったため、こんなユーモアセンスもあるんだと、意表をつかれた感じ。そう言えば、《ホアキン・フェニックス》主演の《PTA》監督作品『ザ・マスター』(それこそ《フィリップ・シーモア・ホフマン》が出演!)のとあるシーンで、全く笑いどころではないのにもかかわらず、爆笑したのを思い出した。映像美も凄かったため、気になる方は是非。

◉冒頭で「LAのカルチャー」とは言いつつ、サンフェルナンド・バレーという郊外の田舎町を舞台にしているため、厳密には「サンフェルナンド・バレーのカルチャー」が正しいのかな。作中ではサンフェルナンド・バレーを中心に、70年代を彩った様々な建物や音楽が登場する。特に、ウォーターベッドの店や音楽とファッションが印象的で、当時の流行を追体験しながら、この時代に生きる男女の恋模様に想いを馳せる楽しさがあった。ただ、ところどころで、当時のカルチャーに関する知識を持ち合わせていなかったため、100%楽しむ事が出来なかったのが本音(ついでを言うと、かの大物俳優や有名音楽グループの楽曲が登場・流れている事すら気付かなかった…)。映画偏差値、たったの5である自分の学の無さを呪いたい!













【以下、ネタバレ含む】














◉出演者の女性の後頭部を枕で叩いたり、テレビで下ネタを言ったり、ドヤ顔で車(フロントガラス)を破壊したりと、時折見せるゲイリーのサイコ感が好き。

ps:これは本当に3.7です!
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